第15話 あの日2

何の雑音も流れないまま暗い帰路を歩いた。

車椅子に俯き気味に座る蓮は呼吸をしているのかさえ分からないくらい静かだ。


膝の上にボールは置いてある。

落ちないように持っている、というよりできるだけ触らないようにかすかに触れているようにしていた。


何かを言いたかった。

でもそれを言わせてくれない。

この空気が、この背中が、言わないでくれとせがんでくる。そんな姿を見たくないから私は蓮に何も聞けない。


街灯が当たったり当たらなかったり、明るい所と暗い所を何度も歩いた。



無言のまま歩き続けるのはは時間を長く感じさせた。行きは全然長いなんて感じなかったのに、今は何時間も歩いたように感じる。


「……ありがとな、送ってくれて」


小さな声でそう言って家の中に消えていった。

絶望に満ちた顔が目に浮かんだ。

一切顔を見せようとはしなかったが、それは見なくてもわかった。


私はどう思っているんだろう…。

あいつの事をどう思っているのか分からない。

間違いなく、わかっていた。あの時恨むべき相手はあいつじゃないって事を。

それでも私はあいつを恨んだ。

そして今、もしかしたらまだその感情が奥深くにはあるのかもしれない。

だからあやふやな態度で接してしまう。


あいつの優しいさを見た。

私たち家族の前では泣かなかったあいつの重い十字架を見た。

あいつのせいじゃないのに、きっと死ぬまで背負っていく気なんだろう。だから私たちだけでも────


こうやって何度自分に言い聞かせても、それでも私はあいつを許すことができない。

ああ、やっぱりまだ、私はあいつを許すことができないんだ───。


花蓮はジメジメとする夜から逃げるように家に戻った。


いつも通り手を洗い、夕飯を食べ、風呂に入って部屋に戻る。ベッドに座りさっきと同じように窓の外を見た。


さっきと違うところはあいつが通らない事。

昔と違うのはあいつがボールを蹴って帰っていない事。こうやって私は過去を振り返る。


あの時から何度も何度も繰り返す。

あるべきはずの未来を幾度となく想像する。

それだけしかする事がなかった。

そうすることしか出来なかった。


カーテンを閉めて電気を消す。

ベッドに潜り混み薄暗い部屋で時計を見る。

時刻は9時30分。いつもよりだいぶ早く就寝に着いた。



◇◇◇


あれから一年、少しはましになっただろうか。

周りは何も言わない。この違和感に気づきながらも口には出さない。


この気持ち悪い関係のまま、私達は時を過ごしていくのかもしれない。












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