第13話 彼の日常

階段をくだり二年の教室に向かう。

二年B組の教室の前まで行くと、開いた教室のドアから顔をのぞかせてお目当てである花蓮を探した。


「あれ、どっかいったのか?」


教室を見渡しても見慣れている顔は見当たらない。念の為に蓮は近くにいたクラスの女子に話しかけた。


「花蓮しらないか?」


「中庭?かどっかじゃないですか?

と言うより先輩よくこのクラス来ますよね」


よく顔を見ると、大体この女子にいつも花蓮の事を聞いている気がする。


「まあなー」


「花蓮の彼氏ですか?」


「んなわけねーだろ。幼馴染…って言ったらなんかいわれるしな……まああれだ────」


そんな事を言っていると後ろから頭に何かがぶつかった。しかし、その何かとは昔からよく味わったものだ。


「いてーよ花蓮」


「わざわざ二度手間かけさせないでよ」


片手に藍色の弁当袋を持った花蓮が後ろには立っている。そんなもの見ないでもわかる事だった。


「まさかそっちから来てくれるとは思ってなくてよ」


いつもだったら俺が花蓮に弁当を分けてもらいに来るのだが、今日はやけに察しがいい。


ん?いや待てよ…?なんで俺の弁当袋を花蓮が持ってるんだ?んん???


そんな反応を顔に貼り付けてる蓮に花蓮は呆れたように話す。


「おばさんが『あいつまた忘れるだろうから持ってってくれない?』って言うから」


「そーゆー事か」


俺の弁当……いつもよりも量が多い。

俺の弁当って事は俺の食欲に合わせてご飯が盛られてる……。

という事は腹がいっぱい満たされる……


そうわかった途端、蓮の目はキラキラと輝き始めた。


「さんきゅー花蓮!これで今日は生きていけるぜ!」


その顔は昔からよく見た、興奮している時の蓮の顔。姉妹たちがよく見ていた顔。

片手に弁当袋を持ち、蓮の一番速いスピードで廊下をかける。いつも見ている光景が、いつもと違って見えた。


「まったく……」


呆れた声で独り言のように花蓮が呟いた。


「あの先輩と仲良いよね花蓮。

ご近所さんなんだって?」


祐奈ゆうなは走っていった廊下の方を見てそう言った。


「うん、幼馴染」



◇◇◇


黒板の上にある時計が三時半を指した。

聞きなれたチャイムの音が同時になりSTが終わった。

全員バラバラに椅子から腰を持ち上げて挨拶をし終える。


学校が終わったと思えば周りはまたバタバタとし始めた。この学校は特別な事情のある人以外、強制的に何らかの部活に入る事を命じられている。


「やべぇ〜俺今日罰でいち早くグラウンド整備しなきゃ行けねーんだよおおお!」

「今日の掃除当番俺らじゃねぇかよ!」

「部活間に合わねぇって!」

「クソっ!足がベトベトして靴下はけねぇ!」

「ちょっと男子ここで着替えないで!」


いつものようにそんな声が教室を飛び交う。

蓮はその会話を聞きながら帰りの支度をする。

二年の時は嫌いだったこの音も今は嫌いじゃない。そう思えるくらいには余裕が出来た。


「そんじゃお先ー」


「「「おー」」」

「明日も遅刻すんなよー」

「連続遅刻記録塗り替えんなよー」


蓮はそれにニコニコで返事をして教室をでた。

廊下には練習着や体操服に着替えているやつがわんさか湧いている。

重そうな荷物を背負い込み、校庭や体育館、音楽室などに散らばっていく。

その光景を見ながら学校を出る。


正門を潜りいつも通りの帰路に着いた。

整備された歩道を歩き、住宅街に入っていく。

登校する時には通らない今にも壊れそうな細い橋を渡る。


一歩一歩、橋と言えるのかも怪しいものは音を響かせる。所々に蜘蛛の巣が作られているが、糸を張った本人はどこにも居ない。


蓮は橋の手すりに張られている蜘蛛の巣を見ながら歩いて元の帰路につき、家へ向かった。



「ただいまー」


返事の帰ってこない言葉を放つ。


母さんと親父はまだ仕事中だ。

店の方にいるとこっちの声は結構大きな声を出してもそう聞こえない。


老人のようにゆっくりと上がり框に腰を下ろし、靴を脱ぐ。この手間がなんともめんどくさくて、外にいる時は帰りたくないとも思うときもある。


リビングの奥にある洗面所に向い手洗いうがいをすませる。これは小さい時からの習慣だ。


『帰ったら手洗いうがい!』

と何度も言ってくるやつがいた。それが幸をそうしたのか蓮は一度も病気にかからない。


健康な蓮は台所でお菓子を探り、それを持って自分の部屋に向かう。サッカーをやっている時の蓮を知っているものからすると、その行動はとても痛々しく見えた。






































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