第9話 絶望
◇◇◇
店の中で大はしゃぎをしていると、家の方からバタッと倒れる音がした。
「ん?大丈夫か
俺は妻の加奈子が転んだのかと思い、席を離れ家の方に顔を出した。
扉を開けてすぐにある家の固定電話の前に尻もちをついている加奈子がいた。
「おいおい、何してんだよ────」
笑いながら手を差し伸べようと顔を見た途端、悪い予感がよぎった。
「お、おい加奈子どうしたんだよ…」
加奈子の表情は店にいた時とは打って変わり、幽霊のように青く、白い。
さっき外か聞こえた救急車の音。
奈々ちゃんと出かける時は必ず早く帰ってくる蓮が今日は随分と遅い事。
ついさっきまでは優勝の事で少し浮ついていると思っていた。
でも、そうじゃなかった───。
ブルブル震える唇を動かし加奈子が一言一言ゆっくりと声を出し始めた。
「病、院に、いか、なきゃ……」
「何があったんだ!?!?」
座り込む加奈子の両肩を掴んだ。
俺のデカい声に反応して、店の中で騒いでいたみんなが家の方に来た。
「一体どうしたんだ
奈々達の父親である
しかし、今は俺の耳には加奈子の言葉しか音が通らない。震える声でもう一度「何があったんだ」と加奈子に聞く。
その声を聞き、周りの人間も只事じゃない事に気がついた。
「蓮、と、奈々ちゃ、、んが───!!」
加奈子の息が乱れる。
目には涙をうかべ身体はすごく震えている。
「車、に、ひか、れたって───────」
その瞬間、俺の後ろでまた誰かの倒れる音がした。奈々ちゃんのお母さんだ。
健三がすぐにかがみ込み体を支える。
「──早く病院に行くぞ」
「
常連客の三人に頼んだ。
「あ、ああ任してくれ」
まだ状況が掴めて居ないのは全員同じ。
現実の事と実感がわかないのは俺だけじゃないはずだ。
今まで味わったことの無い恐怖に襲われながらも雨の降る外に出て、車で病院に向かった。
何分かかったのかも分からない。
震える手を何とか抑え、救急病棟の中に入った。受付で状況を少し説明すると、すぐに分かったのか待合室室まで案内された。
この天気にピッタリの表情と言える。
店にいた人間は、青鬼のように青ざめた顔色で薄暗い廊下をコツコツと歩いた。
手術室から少し離れた待合室につき二つの家族は沈黙の中、手を重ねて祈った。
一体誰がこんな事態を想像できたと言うのか。あの時の、二本目の電話がこんな話なんて誰が想像したか。
悪手のドッキリであってくれと全員が願った。
本当は今日、祝勝会のはずだったんだ…。
くそっ、くそっ、くそっ……!!!!!
畜生、なんで、なんであの二人が……!!!!!!!!!
横を見ると同じように下を向いている葉月家がいる。花蓮ちゃんや美波ちゃんも手を重ねて祈っている。しかし一体何が起きているのかまだ理解ができていないみたいだった。
無心といった表情と言うのか、この場にいる誰よりも哀しそうな表情を花蓮ちゃんはしていた。
俺は加奈子の手をギュッと握り無事を祈った。
それ以外俺たちに出来ることは何も無い。
ただ無事であることを祈って待つことしか───。
そうして何時間が立ったか。
手術室からコツコツと音が聞こえた。
全員顔をグイッと上げて音の方を見た。
白衣を来た医者が俺たちの方を見て歩いていくる。マスクをしていて彼の表情は分からない。
「──────────────────」
俺は何も聞こえなかった。
ただ口を抑え、目から水が溢れ出て来るだけだった──────。
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