第8話 あるべき未来

◇◇◇


「れーん、おきてー!」


ガバッと鳴る効果音と共に被さっていた掛け布団を奈々が剥がした。

閉めていたカーテンは開けられて、眩しい光が部屋を指した。


「…もうちょい」


まだしばしばしている目に逆らおうとせず、もう一度蓮は目を閉じようとした。


「もう七時半よ?」


机に置いてある時計を取って見せた。

その言葉を聞いて、重たい瞼を無理やり開けた。まだ霞む視界に映る針は7と6を刺している。


頭が冴え、一瞬で眠気が飛んだ。


「あと30分しかねーじゃん!」


「…そう言ったじゃない」


やれやれと奈々はため息をついて笑った。

もう制服に着替えてる奈々は黒い鞄を床に置いて掛け布団を畳んでいる。


「早く着替えないと、また記録伸ばすき?」


「うるせー」


蓮は開きっぱの扉を潜り、階段を急いで駆け下りた。


洗面所で制服を着て、歯を磨き、寝癖がつきっぱのままリビングに向かった。

向かう途中玄関に人が立っていた。


「奈々姉早くいこー」


階段の上にいる奈々にそう言っているのは花蓮だ。蓮の方を一瞬見て、すぐに階段の上に目を向けた。


階段から少し早足で降りてくる音がした。


「それじゃ蓮、先行ってるからね」


「はいよー」


姉妹が玄関を出ていき扉がしまった。

蓮は急いでリビングにあるパンを取り、もう一度自室に向かった。


机の上に置いてある鞄を取り、転けそうなくらい早く階段を降りてその勢いで玄関を飛び出していった。




緑色がチカチカし始め赤色に染まった。


「信号無視はダメよ蓮」


そのまま突っ切ろうとする蓮を鞄で制止した。


「そんな事しねーよ」


「はいはい」


三人は信号が変わるのを待って、もう一度通学路を進み始めた。


「今日は結構早かったね」


「起きるの早かったからなー」


食パンを食べながら蓮が言った。


「奈々姉が起こさなかったらまた遅刻だったし」


奈々を挟んで反対側にいる花蓮が突っかかる。いつになってもこの二人の言い合いは無くならない。


「もう遅刻なんてしねーよ」


「…何回この会話続けるのよ……」


奈々が呆れたように言う。

周りで歩いている生徒もまた、いつも通りの光景として三人を見ていた。


本当に”喧嘩するほど仲がいい”とは言うのだろうか。周りを歩く生徒たちはこのことわざを疑い始めてた。



通学路も徐々に生徒が増え始めてきた。

巧や籠丸といった元チームメイトと合流して蓮はそっちに行った。


奈々と花蓮も友達と合流してそれぞれ学校へ向かった。




『キーンコーンカーンコ~ン キーンコーンカーンコ~~ン』


小学校と変わらないチャイムが鳴り、生徒は席についた。

一年の時と変わらず、蓮と奈々は同じクラスになった。これもまた母親達の言う運命なのか、小学生の時からこの二人が同じクラスになることは多い。


クラス替えしてすぐの席は結構離れていることが多い。そりゃあ九条の”く”と葉月の”は”

だから必然的に離れる。


しかし席替えをするとなれば別だ。

運命と言うのか運というのか……。

隣か前後、斜め前の位置に必ず席があるのだ。


そして今日、今年度二回目の席替えが始まろうとしている。


「起立」


学級委員が号令をかけた。

一部の生徒は素早く、一部の生徒はノロノロと席を立つ。


「礼」


『お願いします』


大きい声でかき消される小さな声が混じる。

一限から眠そうにしている生徒、席替えでワクワクしている生徒もいる。


蓮はもちろん前者の方で、挨拶もしっかりせず席に座った途端顔を腕で隠しながら眠りについた。


「早いなぁ…」


隣で見ていた奈々は誰にも聞こえない声で呟いた。



「起きて蓮、もうすぐだよ」


20分程たち、奈々が起こした。

思ったよりも深い眠りについていた蓮は重たい瞼をかろうじて開けた。


「目細くなりすぎ…どんだけ眠いのよ」


「…今日は一段とやばいぜ」


声が出てなければ誰もが寝てると判断するような眠そうな目を奈々に向けて言った。


前を見ると先生がくじを持って席を順番に回っていた。ビニール袋に折りたたんだ紙を入れている。


残りの枚数もかなり少ない。

後ろの席であればある程引く順番は遅くなる。


「ほれ葉月と九条、最後の二枚だ」


二人の席の間に立ち、袋を広げる。

蓮が先に手を突っ込み、奈々が次にくじを引いた。


「何番だった?私は6だった」


奈々が見せる折り込まれた線が目立つ小さな長方形の紙には黒く6と書かれている。


「…俺も…6、だな?」


奈々と同じ番号の書かれた紙を凝視した。


「な、なんで同じ番号なんだ……」


「それ、9でしょ」


いつもの事かのように奈々が指摘する。

紙を取り、くるっと回転させて蓮に見せる。


「アンダーバーが下になってる向きが正解」


紙に書いてある線を指しながら奈々が教える。蓮は素直に「なるほどぉ」と呟いて二つの紙を交互に見比べた。


そんな事をしていると担任が教団の前に立ってデカい紙を黒板に貼り付けた。

紙には何個もの四角い枠に番号が割り振られている。


「これ見て席移動してくれー」


担任がそう言うと、一斉に生徒は動き出した。

黒板を見に行く生徒や机を持って移動する生徒。あちこちで色んな動きが始まった。


そして、比較的目のいい奈々と蓮は黒板に貼り付けられた紙を見て少しおどろいていた。


「……初めてじゃね?席が真反対なの…」


「……と言うより、離れること事態初めてかも」


蓮のもつ9番は廊下側の一番前。

奈々のもつ6番は窓側の一番後ろ。


「新鮮だなぁ」


「ほんと、新鮮」


驚きつつも面白く、二人にしか分からない笑いが起こった。


「それじゃあ!バーイ」


ニコニコしながら奈々が机をはこんでいった。


「おーう」


反対方向に向かう二人は、背中を向けて自分の席の位置に向かった───。




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