第6話 祝福

『ピッピッピーッ!!』


「「「「っしゃあぁぁぁぁあッ!!!」」」」


試合が終わった。

2-1の接戦で蓮たちは見事勝利をもぎ取った。


倒れ込む選手と立ち続ける選手。

負けたチームと勝ったチーム。

蓮たちはどちらも後者でいられることができた。


チームメイトと抱き合ったりハイタッチをする。喜びをチーム全員で共有した。


「蓮!!お前って奴は!!!」


監督は蓮の髪の毛をボサボサにした。


「本っ当にお前って奴は!!」


次は背中をバンバン叩いてくる。


「くぅ〜!!巧、お前もあのキラーパスよく出したな!!」


蓮と同様に頭をゴシゴシし、髪の毛をボサボサにした。


「くっそぉ蓮はJ下部確定かぁ〜」

「俺だって負けてらんねぇ」

「ってもどこのが来てるんだよ今日」

「そりゃ来ると言ったら────」



◇◇◇


全日本少年サッカー 愛知県大会


優勝 名古屋クラブ

得点王 九条 蓮 (11得点)

MVP 九条 蓮


何人もの記者が蓮たちの周りに集まった。


「九条くんの次の目標は?」と女性の記者が。


「もちろん全国優勝です。得点王もMVPも狙う気でいます」


『おぉ〜!』と周りが唸る


「次で中学生になる訳だけど、中学での目標とかはあるのかな」とサングラスを掛けた記者が。


「ジュニアユースでも全国優勝です。ユースでも優勝、そしてプロになってワールドカップ優勝が俺の目標です」


蓮は堂々と言い放った。

虚勢でもなく今考えた夢でもない。

これは蓮がサッカーを始めた時からの目標。

絶対に登りきる壁だ。


無理なんて思った事はない。

俺なら絶対できると、そう信じてるから。


その時までは───。


◇◇◇


「ただいまー」


蓮はいつも帰る玄関からではなく、店のドアを開けていった。


中にいるのは昼間にいたお客と親。そして葉月家が集結していた。


『蓮ちゃん優勝おめでとー!!!!!』


パンパンッ!!と何発ものクラッカーが至る所から音を鳴らした。


「勝つって信じてたぜぇ〜蓮ちゃん」

「すんげぇシュート決めたんだってな」

「しかもMVP、得点王ときた!」

昼間から飲んだくれのおっちゃん達が赤い顔で褒めたたえた。


「ナイス蓮!俺もお前を信じてたぜ!」

親父と母さんが厨房から出てきた。


「おめでとう蓮。また変な事言ってないでしょうね?」と笑顔で母さんが聞く。


「なんも言ってねぇーよ」と蓮も笑いながら応える。


「蓮くんおめでとう」

奈々達の母さんが嬉しそうに。


「蓮坊おめでとな!!仕事で試合間に合わなかったわ!」

奈々達の父さんも嬉しそうに。

行けなくて悔しそうに。

夫婦同じ様な笑顔で蓮を祝福した。


「サンキューおじさん、おばさん。

てかおじさんはその呼び方そろそろやめてよね」


「ぶはっ!!この呼び方に何の不満があんだよ蓮坊!!」


蓮の頼みなど聞かずにおじさんはこの呼び方を変えることはない。多分これからも…。


「蓮〜おめでとー!」


美波が助走を付けて蓮の元に走り込んできた。蓮は片手を広げ、『パチン』とハイタッチを準備をする。


「おーう!ぶふぉっ…!!」


ハイタッチと為と思われたその助走。

それは見事腹に直撃した頭突だった。


「お、おのれ美波ィ…」


まだ頭を腹に擦り付けている美波を離した。

奈々は離れた美波に「ナイス頭突き!」とハイタッチをしていた。


(こ、この悪女姉妹め……)


ちなみに言うと花蓮はいつも通り来ていない。




蓮は一度風呂に入り、着替えた。

店には美波以外全員残っていた。


「蓮、いくよー!」


店で待ってた奈々は蓮が店に入ってくると、席を立ち、そう言った。


「それじゃ、行ってくるわ」


『あんま遅くなんなよー』


後ろで言う二人の親父の声に「おー」と反応して戸を閉めた。



◇◇◇


店に残っている人は、足音で蓮と奈々が行ったのを確認した。


「…相変わらず仲良いなあの二人は」

「俺達がここの常連になる前からだもんな」

「将来どうなってんだろな」


酒をぐびぐびっと飲む。


「運命なんですよ、あの二人は」


「ふふふ、そうですね」


ツマミを運ぶ奥さんと、それを手伝う奥さんが言った。

それに乗っかるように九条家の大黒柱が言う。


「蓮が奈々ちゃんに惚れるのは分かるが、奈々ちゃんが蓮に惚れる理由がさっぱりわからん」


「そう思わないか!?」と親父さんは店にいる全員の顔を一人ずつ見た。


それを黙って聞いていた奥さんは、お盆で親父さんの頭を叩いた。


「それなら私もあんたに惚れた理由がわかんないよ」


ドッと店の中が笑いで包まれた。

言った本人も言われた本人も、聞いていた五人も腹を抱えて笑った。


「嘘だよ、嘘。俺もあいつらは運命だと思ってるよ」


「俺も、そう思うねぇ…」


少し茶化しながらも、妙に真剣に親父さんは付け足して言った。


◇◇◇


少し曇ってきた空が蓮たちを待っていた。


「雨降りそうだな」


曇った空を指さしながら言った。

隣に歩く奈々は蓮の指す方を見た。


「確かに降りそう。ちょっと待ってて」


ちょうど葉月家の玄関前だったから、奈々は傘を取りに行った。


「おまたせー」


「10秒も経ってねぇよ」


玄関から一瞬で出てきた奈々の手には一本の傘が握られている。

無地の紺色の傘だ。


「…俺のじゃんか」


「そっ、二人で入るなら大きい方がいいでしょ?」


ニコニコな笑顔で蓮の顔を下から覗いた。


「…なんでもいいよ」


照れ臭く、目を逸らして蓮はぶっきらぼうに言った。


思った通りの反応をした蓮が可愛く、手を引っ張って歩き始めた。


「どこ行くんだよ」


「ないしょー」


引かれるがままに蓮はついて行った。

今の天気とは裏腹に、二人の心は快晴のように晴れて、楽しそうだった。









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