第4話 猛速攻
『ピッピッー!!』
1-0のまま前半の20分が終わった。
コートにいる選手達は汗を拭いながら日陰になっているベンチに戻っていく。
蓮たちがベンチに戻るとハイタッチを求めて待っている監督たちが待っていた。
首を氷で冷やしてベンチに座る。
「ナイシュー蓮!」
「あのシュートえげつないな!!」
まだ勝ちが決まった訳では無い。
点差だって全然ひっくり返される程。
それでもベンチの雰囲気は勝ったも同然のようだった。
「あったりめーよ!」
蓮は力こぶしをつくり、口を吊り上げて笑った。
「蓮、塩分チャージ」
「サンキュー」
袋を開けて口にほおりこむ。
「飲水しながらで構わん。顔だけこっちに向けてくれ」
そう言われ、手にボトルを持ったまま選手たちは顔だけではなく、身体も向けた。
「全員まだ満足してる訳じゃないよな?」
再確認とも言わんばかりの口調で選手全員に語りかける。
「1-0だ。うちも強いが相手も強い。点差は一点だけなんだ、すぐひっくり返される事だってあるぞ──。俺は納得してない、まだな」
選手一人一人の目をしっかりと見つめる。
「素晴らしい一点だった。確かにその通りだ。勝ったと思う気持ちも分かる。
ただな、ここで気持ちを緩めてみろ。必ず足下すくわれるぞ」
ゴクリ、と唾を飲む音が選手たちからする。
水を持ったまま飲むことはせず監督をじっと見て話を聞いている。
「もっとだ、もっと集中しろ!
0-2で負けてると思って戦ってこい!
笛がなるまでゲームは続くんだからな!!
気持ちも試合も勝ってこい!!!」
『っしゃっアアアアアアアアアアァ!!!!!』
全ての選手が気合いを入れ直した。
頭から水を被り暑さを飛ばす。
『ピピッー!!』
その合図が聞こえると蓮たちはコートの中に戻って行く。
「蓮、もう一点決めてこい。お前ならできる」
監督が最後に耳元で言った。
「もちろんっす」
蓮は監督の顔は見ず、ニヤッと笑いながらコートに戻っていった。
◇◇◇
『ピーッ!!』
後半が始まる合図が鳴る。
鳥の鳴き声の様な音が会場に響き渡った。
後半は蓮たちからのボール。
蓮がセンターサークルからボールを下げて試合が始まった。
ボールは真ん中の凛のところに転がり、ダイレクトで相手の方に蹴っ飛ばした。
「いつものやつね」
奈々は暇な時によく蓮たちの試合を見に来る。そしてだいたい蓮たちから試合が始まる時、最初に大きく蹴ってサイドの楽にボールを預ける。
楽君はすんごい早くボールに追いついた。
「相変わらずあの人すごく早いわ…」
花恋が「おぉ…」と唸っている。
「早くもう一点決めて欲しいけど…そう簡単じゃないよね」
奈々はそう花恋に聞く。
「あのキーパーから何本も点は取れんよ」
花恋はしっかり試合に集中している。
黒目がボールの動く方に何度も動き、いい所に選手が走り出すとそっちに目が行き。
やっぱりこの子も蓮と同じサッカーバカなんです。
「
蓮たちのチームが後半に入ってから2本シュートを打った。
どちらも手の届きにくい隅っこにいった筈なのにしっかりと弾いてる。
「…これは同点にされる訳にはいかないね」
◇◇◇
VANSの守護神だ。
そう簡単にはゴールを割らしてくれないが、この先どうするか…。
何とか先制は前半に決めれた。
だけどこの先何本も決めれる確率は低い。
何としても点を取らせる訳にはいかないな…。
楽がボールを大きく蹴りすぎてタッチラインを割る。ゴールキックからの再開だ。
竹林はボールをセットして助走をつけた。
振り抜かれたボールは綺麗にバックスピンがかかっている。
ボールは右サイドハーフのやつの足下にピンポイントで入りしっかりおさめた。
宏は足の速い選手に十分な距離をとる。
『ぽんぽぽん』とタッチに暖急をつけてまたもやDFを揺さぶりをかける。
が距離を取られたため中に入り中盤にパスを預けた。
それを狙っていた凛は後ろから走り込みインターセプトをする。2タッチで蓮に素早くボールを渡す。
相手を背負いながら受ける。
遠い右足でボールを動かしスペースを探る。
マイナスには凛、横に走り込むのは巧。
インサイドで巧の前に出した。
蓮はそのままクルッと反転してサポートに入る。
独特のタッチでゴールに向かう巧。
サイドバックが釣られて足を出した瞬間ボールを引いてルーレットで交わした。
「巧!こっち!」
後ろからオーバーラップをして来るのは宏。
無尽蔵のスタミナであっさり巧を抜き去り、巧はボールを預けた。
ゴールライン近くまでボールを運ぶ。
そしてペナルティエリア内を見た。
楽と凛、成悟が中にいる。
スピードを少し緩めボールにカーブ回転をかけながら少し無理やりセンタリングを上げた。
「ナイスボー……!?!?」
VANSのキーパーは高く飛び上がっている。
クロスバーの上まで手が伸び、ボールをしっかりキャッチした。
「──戻れ!!!」
蓮がそう言ったと同時にVANSの猛カウンターが始まった。
全速力で自分のゴールに戻る。
ボール目掛けて追いかける。
全員死に物狂いで戻って行った。
VANSも同様、この期を逃さんという気迫。
ボールを前に繋げていき、選手も前に突っ走る。
(間に合わねぇ───!!)
もうボールはペナルティエリアに侵入するところだった。
中には二枚のDFしかいない。
対してVANSは四人。
圧倒的不利な状況。
ボールは背番号10に渡り一瞬でシュート体制に入った。
「コース塞げ!!!」
監督の大きな声が響く中、大西が身を投げ出しコースを塞ぎにいった。
───しかし…ボールは大西には当たらない。行先は隣に走り込んでいたもう1人のVANS。
完全に出し抜かれ、キーパーも反応出来ぬまま──
『うおおおおぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!!』
───同点に追いつかれた。
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