第73話

「お、お主は天狗と稲荷の……。そうか、お主等の仕業だな。ふざけた真似をしおって。わ、ワシの身体を返せ! 返すのじゃ」

 身をプルプルと震わせて抗議の声を上げる。ヘビ。

 でも、見た目は小さな女の子にしか見えないので全然迫力がない。どちらかというとかわいらしくすら見える。

「ならん。年貢の納め時だな。諦めろ」

「ならば、徹底的にやらせてもらうぞ!」

 ヘビは口をぱかっと開けると力を溜めようとした。が、同時に身体に纏いついている赤い綱が怪しい光を放つとヘビの身体を締め上げる。

「ぐっふああああああああああああ。く、苦しい~。ぐぎゃあああああああ」

「無駄な抵抗はしないことだね。君にそれを解くことは出来ないよ」

 腕を組んで冷たく言い放つ守。その前でヘビは身をよじりながら悶え苦しんでいる。

「ううううううううううううっ。わ、分かった。降参だ。こ、この綱の業を止めてくれ」

「簡単なことだよ。君が力を放つのを止めればいいのさ」

「な、何?」

 言われてヘビは口を閉じて身体を弛緩させる。途端に綱は光を止めて緩んだ。

「貴様の身柄は私が預かる事になった神妙にしろ」

「嫌だ。漸く表へ出られたのだ。閉じ込められてたまるか。ワタシは自由になるんだ」

「お前に拒否権はない。あれだけ暴れれば十分であろう」

「う、うるさいうるさい。小さな石の玉っころに押し込められしかも割り散らされ続けったこの恥辱。あれしきの事では耐えられな……う~、は、腹が……減った」

 ぐきゅるるるるるるるるるるるる。

 喚きちらしている最中にヘビのお腹が激しく鳴った。

「ふん。久方ぶりに生身の姿を顕現させた上に無理して能力を使おうとするからだ。そのままでは身体が持たんぞ」

 そう言って陣八はあゆみの方へと意味ありげに目を向ける。

「ヘビ。僕だ。金鞠あゆみだよ」

「か、金鞠の子孫か。む~、よくも騙してくれたもんだ。オナゴにしかみえなかったというのに。ワ、ワタシをどうするつもりだ」

 腹を押さえながらも厳しい顔をして睨むヘビ。それに対してたんたんとあゆみは答える。

「さっき陣八様がいっただろ。一緒に来てもらう」

「それでどうするつもりだ? 貴様の先祖を呪った事に対する復讐でもするつもりか」

「……しないよ。ただ、これ以上悪い事はさせない。その為には目の届くところに居てもらう」

「ワタシがそれに従う道理はない」

「まあまあ。ならばこれはいらないのかな」

いってあゆみは懐から握り飯とゆで卵を取り出した。母が夜食代わりに持たせてくれたものだ。

「そ、それは。鳥の卵か?」

「そうだよ。ほら」

 手を差し出すと。ヘビは奪う様にパクンパクンとどちらも一気にのみこんだ。

「う、美味い。久方ぶりのタマゴだ」

「家に来たら、日に朝、昼、晩。卵を食べさせてあげるよ。奪う必要もないし、お供えに頼る必要もない。悪い条件じゃないだろ?」

「むっ…………んんんんん。朝昼晩、二個づつでもいいのか?」

「しょうがない。それでいいよ」

「本当か? 毎日、卵をくれるのか? よし、行く!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る