第72話
煙はうねる様にまとわりついていたが、暫くするとそれも見えなくなった。
「よし、この藁ヘビを依り代として奴の姿を顕現させる。おい、狐。手を貸せ」
気が付くといつのまにやら人の姿に成った守を含めて他のみんなも揃っていた。
「あ~。やっぱやんの? もうくたびれたのにな。時間外労働だよ」
彼はこれみよがしに右手拳を左肩にトントンとやり疲れたアピールをする。が、
渋々ながらノロノロと身体を動かそうとするその後ろに忍び寄る影。
「狐さんお疲れなんですかぁ~。だったら~わたしぃ~お肩を叩きますよ」
両手をワキワキと動かしながらニンマリスマイルを浮かべる真奈美だった。
「ま、真奈美ちゃん。あ、ありがたいけど。い、今はいいよ」
「えぇー。遠慮しないで~くださいよ~。私~これでもお父様の~肩もみして~ほめられてたんですよ~」
「いいって、いいって。本当、大丈夫だってば」
何とも気の抜けたやり取りをしている二人にしびれをきらしたのか陣八が声を上げた。
「そこ! イチャコラするのは後にせい」
「い、イチャコラなんかしてないって!」
言われて守は慌てた様に真奈美をみるが、真奈美の方は「イチャコラってなんですか~」と顎に人差し指を当てて首を傾げてる。
「ふん。そもそも、貴様は普段から休んでいるようなものだろうが。グダグダいってないで働け、たわけもの」
「へいへい。分かりましたよ」
諦めた様に答えながら守は懐から赤い綱を取り出すと置いてあるヘビ藁に巻き付けた後また下に置くと、印を結ぶ。
「オンキリカクソワカオンキリカクソワカオンキリカクソワカオンキリカクソワカ」
彼が唱えると同時に赤い綱から光が溢れて藁ヘビを包む。
それを見届けた後、陣八がシャランと錫杖をかき鳴らした後言う。
「現わせ」
途端に藁ヘビは眩い光に包まれた。
「うわ、眩しい」
陣八と守以外はその光に当てられ目を閉じてしまう。数秒してそれは収まり目を開けると目の前には所々赤い筋が入った白い着物を着た女の子が倒れている。よくよく見ると着物の赤い筋は綱だった。
「じ、陣八様。この、女の子が?」
「うむ。あのヘビだ。力を弱らせた為にあの様な姿で現れた訳だな」
陣八が答えると守が横から補足する。
「あの赤い綱はね、お稲荷様の神力が込められた特注品なんだ。あれ自体に力がある上に霊力を放出しようとするとそれを吸い取って綱の力にしてしまうっていう強力な物なのさ」
「いくらあがいても抵抗できなくなる訳ね」
「そゆこと」
あゆみはそれを聞いてほっとした。今日これ以上闘う能力残っていない。それが保障されただけでもありがたかった。
「う……ん。ん?んんんんんんん? な、なんじゃこれは、こ、この姿は!」
そんなやり取りをしている内にいつのまにやらヘビの目が覚ました。が、彼女は己の姿と状態に混乱しているようだった。
「目を覚ましたか。ヘビよ」
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