第71話

「……ない事もない」

「その方法とは?」

「ヘビの魂を別な器に移し替えるというものだ」

「つまり、石ではないものにという事ですね。でも、そんな事可能なのですか」

 元々、ヘビの魂が石に移した物が割れた物を分割管理していた。それを移し替えて封じるという意味だろうか。

「これを依り代として使う」

 言って陣八は懐から差し出した物。それは藁を束ねて細長くした様な形状をしていた。表面には御幣が付いていた。

「こ、これは?」

「うむ。ヘビを模した形代だ。ワタシと狐の霊力を込めてある。謂わば簡易の結界を作りこの中にヘビの霊を移すことで弱体化させることが出来る。ただ、この方式では完全に封じる事が適わん」

「しかしそれではヘビを野放しにすることになりますよ。いくら弱体化してるからって危険じゃないですか?」

「勿論、野放しにするとはいってない。力を抑えながら目の届く所に置いて監視するということだ」

「って、事はつまり、百鬼夜荘に連れてくって事ですよね」

「他に場所はなかろう」

「あのヘビを、ウチに……」

「そういう事になる。どうする?」

 端正な顔に試す様な表情を浮かべながら陣八はあゆみに顔を向ける。

 その意味をあゆみは痛いほど感じていた。ヘビと金鞠家の因縁。奴による呪詛を受け祖母は寿命を削られた。母の身体も現在進行形で弱ってしまっている。謂わばヘビはその仇だ。

「わかりました。その案でお願いします」

「あゆみ。でもそれで良いのかい?」

 横で聞いていたひみかはその答えがどの様な意味を持つのかはよくわかっていた。

「うん。勿論、ヘビの事を完全に許す……とは言えないよ。でも、元はご先祖様がヘビを殺してしまった事が因縁の発端になってるっていう事もあるしね。このままじゃ怨みの念を互いに消すことが出来ない。それに、ナメコさんを助けなきゃだしね」

 それこそがヘビの狙いともいえるかもしれないのだ。互いの怨みが重なり因果が消えない事により、ヘビの能力が増幅されていく装置として機能する。それを断ち切る事こそが必要なのだろう。

「ふっ、そうかい。君がそういう選択をするならいいさ。私は何も言わないよ」

 ひみかにとっても金鞠多津乃は大恩人であり、その仇ともいえるヘビには想う所もあった筈だ。が、あゆみを見つめるその表情は柔らかい物だった。

「ありがとう。陣八様、お願いします」

「うむ。任せろ」

 言うと同時にシャランという音が辺りに鳴り響く。

目を向けるといつのまにやら陣八の着ている服がスーツ姿では無くなっていた。

 頭には十二のヒダがある帽子を被り白の法衣に六つのフサが付いた袈裟という山伏姿だ。片手には錫杖持っている。

「おんあぼきゃべいろしゃのうまかぼだらまにはんどまじんばらはらばりたやうん……」

 彼は真言を唱えながら錫杖をナメコの方に向けた。すると、

「う、うあああああああああああああああああああ」

 ナメコの口から凄まじいうめき声と共に紫色の煙のようなものがデロンと飛び出したかと想うと、陣八が片手持っている藁ヘビに吸い取られるかのように収まっていった。

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