第70話

「う、うーん。もう、ダメかも~」

 流石に全ての力を振り絞ったのだろう。目の玉をグルグル回しながらへたりこむ氷魅華にあゆみは駆け寄って抱き寄せる。

「ひ、氷魅華! 大丈夫? む、無茶させちゃったね、ごめん」

「んふふふ、いいのさ。君の役に立てるなら私はこの身がどうなっても後悔しない」

 言って氷魅華はガクッとあゆみの胸に抱かれながら力尽きる。

「ひ、氷魅華~~~~~」

 そんな彼女をあゆみは強く抱きしめた。

「大袈裟だね。そっちは少し休めば大丈夫だろ」

 そんな二人に対してメアリーは呆れた様な声を上げる。

「で、でも。メア姐。氷魅華は身体がボロボロなのに頑張ってくれたんだよ」

「そりゃそうかもしれないけどさ、こっちの方はどうすんだい」

「あ……。そっか」

 あゆみも言われて思い出したようだ。目の前には分厚い氷の塊が山になっていた。

「ここまでやられるとだとヘビの奴もどうすることも出来そうにないけどさ。アンリの身体に入ったままなんだろ」

「んー。そっか、氷が解けたら又暴れだしちゃうかもしれないよね」

「とはいえ、この状態のままじゃヘビの石を取り出すことも出来ないだろ」

「うーん」 

 メアリーの言葉に困ったように腕組みしながら考えていると、

「あゆみ。やったようだな」

 いつのまにやら傍に来ていた白倉甚八が声を掛けてくる。

「あ、勘八様。はい、何とか氷に閉じ込めたんですけど、石がナメ山さんの身体の中にあるんです」

「アンリの奴ヘビの石を食っちまったみたいなんだよ」

 二人の言葉にも慌てず騒がず陣八は氷の山に目を向けながら答えた。

「ふむ。その様だな。中からヘビの気を感じるわ」

「ど、どうしたらいいんでしょうか」

「ふむ。そうさな。一番手っ取り早い方法はあるが……」

 困惑気味に言うあゆみに対してメガネをクイッと上げながらいう勘八は言う。

「そ、それはどういうものなんでしょうか」

「あの、アカナメごとヘビを封じてしまうということだ」

 事もなげにされたとんでもない提案にあゆみは大声をあげてしまう。

「ええええええええ。ナメ山さんも一緒に消してしまうんですか。それは可愛そうですよ」

「いや、別に消してしまうという訳ではない。ヘビの奴は石が割れて大分力が削がれておる。結界を張って動かなくてしてしまえば、その内妖力も果てるであろう。それまで時が過ぎ去るのを待つという事だ」

「で、でも。それって、どれくらいですか」

「ん~。まあ、早くて二百年という所か」

「そ、そんなに? その間、ナメ山さんも動けないっていうことですよね」

「まあな。しかし、死ぬわけではない。妖怪ならばそれくらいの時は耐えられるであろう」

「で、でも……。僕達が生きている内には会えないって事でしょ。それはいくらなんでも寂しすぎますよ」

「まあ、生きている人間にとっちゃあ、二百年ってのは短くない時間だーね」

「うん、メア姐。そうなんだよ、母さんだってきっと悲しむし」

「ふむ、でもあんた。この娘には大分手を焼いたんじゃないのかい。居なくなってもらった方が都合が良いんじゃないかい」

「そりゃあ、困る事もあったかもしれないけど、それで嫌いになんてなれるわけないし。居なくなるのは嫌だよ」

「ふーん。あの舌で舐めまわされるがそんなに惜しいのかい」

 突然、胸に抱いていた氷魅華が声を出したので、あゆみは驚いてしまった。

「え……、あ、氷魅華。起きてたんだ? べ、別に違うよ。そういう訳ないさ。で、でも」

 ブンブン首を振って否定するあゆみを見ておかしそうに氷魅華は笑い声を上げた。そして、

「ははは。冗談だよ。君の言葉に他意がないことくらいわかるさ、陣八様。私からもお願いです。なんとかナメ山さんを助け出してヘビの石だけ封じる事はできませんか」

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