第67話

「あゆみよ。石は見つけたか」

 

 闇夜に紛れながらもその眼光は鋭い。そうだ、未だ砕けたヘビの石の一部が見つかっていなかったのだ。探すように言われていたのに、みんなとのやり取りにかまけてとりかかるので未だとりかかれていない。


「ああ、そうでした。今から探します」


「何? まだ探してもおらなんだか。全く呑気な奴め。何をしていたのだ」


 ぶつくさ言う言葉を背なに受けながら片手に剛霊杖、片手に石の破片を持ちながら念を込める。すると杖が鈍く光を帯びたかと想うと、ぐるんぐるんとゆっくり動き出す。


「えっとこっちの方かな。メア姐ちょっと手伝ってくれる? 石を探してるんだ」

 

 辺り一面は夜の闇に包まれている。月明りで薄ぼんやりとした中、段々目は慣れてきているものの、砕けた石を見分けられる程ではない。そこへ行くと吸血鬼であるメアリーは夜目が利く。そうした頼み事にはうってつけだった。


「石かい? その辺に転がってるけどね。どれがそれに当たるのやら」


 メアリーは地面に目を向けながら辺りをキョロキョロと見回しながら言う。


「うん、この杖の先にある筈なんだ」


 言ってあゆみは歩き出した。数歩進むと辺りに草が生い茂っているエリアがある。


「あゆみ。危険はないのかい?」


 気づくとひみかもすぐ後ろに付いてきている。心配してくれているようだ。それは以前までの彼女の表情仕草と変わるものではなかったのだが、お互いの想いをぶつけあって恋人同士になったという前提だと何だか届き方が違うように感じられた。


「三つに石が砕けてるからね。流石に自分で動く能力は失ってると想うんだけど……」


 そう返事しながら何だか顔が紅潮しているのを感じる。が、こらこら、浮かれるのは全て終わってからだ。後一息、これが終われば後は帰るだけ。帰ってからは、こ、恋人としてひみかと傍にいられる訳で、と止めようと思った途端に妄想がとめどもなく広がるが。


「あ、ねえ。杖が止まったよ」


 ひみかの言葉に我に帰り杖に目を向けると明滅しながらある一点を差して動かなくなっていた。


「あ、ああ。この辺に転がってるのかな。メア姐、どうだろう」


「この辺にたって、この草むらの中じゃあ見えてるアタシだって探すのは一苦労……。おや?」


 あゆみの言葉をかけられながらも、少し弱ったように言葉を発したメアリーは言葉を止める。何かが目に留まったらしい。


「み、見つかった?」


「いや、そうじゃない。誰か倒れてるよ」


 てっきり石が見つかったのかと想ったが、彼女の返事は予想外のものだった。確かに薄闇の中、ぼんやりとしか見えないが人が倒れているのが目に入る。


「え? た、倒れてるってまさか、他に関係ない人を巻き込んじゃった訳じゃないよね」


 一応、このエリアは隔離していた筈だ。戦闘が開始した時点でも人はいなかった筈だ。そう思いながらあゆみも傍に寄って行った。メアリーはそれよりも早くその倒れている人物の元に到着して、肩を叩きながら声をかける。


「ちょっと、あんた大丈夫かい。ってなんだ……アンリじゃないか」


 目をバッテンにして、長い舌をベロンとだしながら倒れていたのは、百鬼夜荘の仲間の一人、ナメ山アンリだった。


「え? ナメ山さん? あ、そういえば。ナメ山さんも一緒に来てくれてたんだっけ」


彼女も一緒にやってきて闘った同士の筈なのに、すっかりその存在を忘れられていたのだ。考えてみればひどい話だ。


「だ、大丈夫なのかい? ア、アンリちゃん」


 ひみかが心配そうにメアリーに声をかけた。


「まあ、死んじゃいないようだね。寝てるだけの様だ。大丈夫そうだよ」


「そっか、よかった」


「まあ、とりあえず。石を探そう。こいつはアタシが何とかするよ。いざとなったら母さんを呼ぶさ」


 妖怪医者を母に持つ彼女は妖怪を治療する術も心得ていた。彼女がそういうならば心配はないのだろ。


「うん。じゃあ、さっさと探しちゃおう。えっと……。杖はここを差してるんだけど」


 あゆみは辺りをぐるぐる回りながらその方角を狭めていく。そしてその差している方角はナメ山アンリが倒れている場所だった。


「えっと、この周りにはないようだね。ひょっとして、アンリの下敷きにでもなっているのかもしれないね。ちょいと、二人共手を貸しとくれ」


 メアリーに言われて三人でアンリの身体を横にずらしてみた。が……。


「無いな。あゆみ、ここで間違いないんだろうね」


「うん。間違いないはずだけど」


 再び杖を持ち辺りをグルグル回りながら場所を特定しようとするあゆみ。しかし、それが指し示している方角は一方向しかない。その方向にある者と言えば。


「ねえ、あゆみ。私、一つ思い当たることがあるんだけど」


「ひみか。僕もちょっと思いついちゃったんだけど」


「あんたらもかい。奇遇だね。アタシもこうなったら一つしか思い当たらないね」


 彼らの思いえがいている場所が恐らく正解だった。先ほどから杖が指し示している場所。その先にあるものはナメ山アンリ自身だ。


「嫌だよこの子は。日頃何でもかんでも口にいれてるかと想えば」


 メアリーがおでこに手を当てながら呆れ声を上げる。


「あゆみ、じゃあ、やっぱり。きっと……」


「ああ、ナメ山さん石を食べちゃったんだ」

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