第66話
「やあ、君も大活躍だったね」
「まあ、本当に色々な意味で大活躍してくれたよ」
満面の笑みで人魂に目を向けるひみかに少しの苦笑をにじませながらもあゆみは応じる。
確かに、ヘビの復中という隔絶された空間と外界を結ぶ大事な役割を果たしてくれた。それが為に彼と彼女のラブラブな痴態をのぞき見される事にもなってしまった訳だが。それを差っ引いても大いに役立ってくれた存在と言えるだろう。
二人の言葉が通じているのか、人魂はその光の色を淡く暖かなアイボリー調に変えて光明滅させながらゆっくりその身を薄れさせていった。
「あ、あれ? 大丈夫かい? 消えてしまいそうになっているようだけど……」
「大丈夫よ~。一旦引っ込めただけ。ふぅ~くたびれた」
薄闇の中、地面にへたりこみながらあきなが息も絶え絶えに呟いた。その姿は百年十年もの間怨みの念を積み上げてきた皿屋敷のお菊とは遠く離れたものだった。
「そっか。この子はあきなちゃんが出してくれてたんだっけ」
その言葉と同時くらいにその光は小さく揺らめきながら消えていった。ひみかはそれに対して少し寂しそうに「ありがとう。またね」と小さく呟きながら手を振った。
「そうよ~。こんなに長い時間、出してた事なんて久しぶりなんだから、私にも感謝してよね~」
そんな様子を気にするでもなく、まるで駄々っ子のようにあきなは声を上げている。
「勿論、感謝してるよ。ありがとう」
そんな彼女にあゆみが真面目な口調でいった。
「うん。私は正直ヘビのお腹の中に居てとっても心細かったんだ。だから外部とやりとり出来るってわかって本当に助かったよ」
ひみかは傍まで寄ると今なお地べたに座り込む彼女に手を差し伸べて言った。
「ありがとう」
「えっ。あ、うううう」
薄闇の中でよく見えないがあきなの顔が赤くなっている事は用意に想像がついた。日頃
の自分に対する扱いからここまでストレートに例を言われると想定していなかったらしい。
「べっ別にアンタたちの為にやったんだからねっ」
混乱しているのか照れ隠しに勢いの良い切り返しをしたのか良く分からない返しをしな
がらひみかの手を握り返した………が、
「よっ……あっあれ?」
普段のひみかならそんな事はないのだろうが、能力、体力を使い果たしのは彼女も同じ。
くたっと腰から落ちるように倒れ伏してしまう。
「ちょっと……だ、大丈夫?」
半身を起こしながらあきなが心配顔で声を上げた。
「ひ、ひみか。け、怪我はない?」
あゆみも驚いて身を寄せる。対してひみかは、
「だ、大丈夫。ケガとかはないんだけど。たははは情けないね。余力が残ってないや」
バツが悪そうに言った。その姿はいつも気丈な姿を見せている彼女の様子と違っていて、あゆみはそれを可愛いと思ってしまう。
「やっぱり精も根も尽きたって感じだね」
いいながら、彼女に手を差し伸べるあゆみ。
「うん。そんなに疲れが残ってる感覚はないんだけど」
言いながらあゆみの手を迎えるように握り締めて立ち上がろうとして上を見上げる彼女
が「わあ……」と声を上げる。
「どうしたの?」
「ねえ、あゆみ。空を見てごらんよ」
「え? ああ。これは凄いな」
空には満点の星にぽっかり浮かんだお月様。ここに来た時には薄曇りだったが、いつのま
にやら晴れていた様だ。
「綺麗だね~」
「うん、本当に」
ロマンチックな光景に見つめ合う二人。だが、そこに脇から見ていたあきなが声を上げた。
「ちょっと、ちょっと。いい雰囲気な所悪いんだけどさ。私がいるのを忘れてないでしょう
ね」
「え……。あはははは。も、勿論忘れてないよ」
「う、うんうん。私達のことを助けてくれて大活躍だったあきなちゃんの存在忘れる訳ない
さ」
彼女のすぐ目の前で二人だけの世界に入りそうだった事に気づき慌てつつ取り繕う様なことを言う二人。
「全く、白々しいわね。れに、あゆみ。まだ、終わってないんでしょ」
あきなはそれに対して空を見上げながら言う。
「え。あ、うん、そうだったね」
言われて彼も空を見上げながら答えた。弛緩した空気に少し緊張感が混じる。
月を背にして自分等の方に向かって一つの影が下りて来ようとしている。
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