第59話
「ぐるるるるるっるるるるるるる……」
声の方向に目を向けると、そこにはいつの間にやら黒いモヤに取り巻かれたヘビの石がひみかのすぐ脇に迫ってい来ていた。
「へ、ヘビ!」
ひみかはそれに気づくとすぐにその場を飛びのいて距離を作る。
先ほどのひみかによる能力暴走により氷漬けになっていたが能力が解かれた事により自由になったようだ。
「全くしつこいな。まだ、暴れまわるつもりかい。そろそろ観念したらどうなんだ」
言ってあゆみは杖を正眼に構えて石を見据える。
「観念だと? ふざけたことを。金鞠の巫女が邪魔してくれたお蔭で龍となる事が果たせなかったのだぞ。しかも身を焼かれ石に封じられ恥辱の時を過ごして幾星霜。漸く表に出ることが叶ったのだ。この機会をふいにして溜まる物か。出来ることなら巫女当人へと復讐を果たしたい所だったが、既にこの世に亡き今、子孫である貴様を倒させて貰うとしよう。邪魔者がいなくなった所で人間共の欲を吸い付くし、邪龍と成り遂げる。龍の身になれば欲だけではなく、人の魂そのものを喰らう事も可能だからな、ふははははははは」
「そうはさせないよ!」
言ってひみかが手を上に振りかざし冷気を集中させようとした。が………。
「あ、あれ? ち、力が」
言ってヘニョンと身体から力がぬけるような形でへたり込んでしまった。
「ひ、ひみか? だ、大丈夫?」
慌ててあゆみが駆け寄って彼女を抱き起した。
「う、うん。大丈夫。だけど、暴走させちゃったからかな。雪女の能力がつかえなくなってるみたいなんだ」
「そっか。無理もないよ。でも、あれだけの能力を解放したんだから」
考えてみれば当たり前のことかもしれない。あれだけの吹雪を起こして周りを一瞬にして氷漬けにしてしまったのだ。普段の彼女が使う何十倍、何百倍もの能力を一気に解放したことになる。今の彼女には雪のかけら一つ出すのが難しい筈だ。
「ふふん。半妖の雪女は使い物にならないようだな。あの能力には少し驚いたがその体たらくではもう怖くない。後は貴様一人だ金鞠の巫女よ」
「金鞠の巫女?」
「ふはははははは。私が倒されるに任せていただけだと想ったか、金鞠代々巫女となる女の血に霊力を使えば使う程身体を蝕む呪いをかけたのだ。この呪いはな子々孫々金鞠の家に受け継がれていくことになる。心当たりがあるだろう?」
「ま、まさか。ひょっとして……」
そうだ。彼の祖母多津乃は身体を弱らせ若くして亡くなった。母、須磨子も霊能力を使う度に身体に相当な負担がかかっていた。その原因を作ったのは。
「う、嘘。じゃあ、婆ちゃんの目が悪くなったのも、早死にしたのもお前のせだったいうのか!」
あゆみが途絶えさせた言葉の先をひみかが継いで言う。その声色には明らかな怒りが込められている。
「その通り。謂わば血に仕込んだ毒よ」
「なんて事を! ゆ、許せない」
あゆみは低く静かにそう呟いた。
「巫女よ。見たところ貴様は相当若く未熟と見える。貴様のようなものが巫女を受けなければならないということは、金鞠の血が相当弱体化していると見える。まずは貴様を一捻りして、その後貴様とその小娘の欲を吸い取ってくれる」
言ってヘビの石は天高く跳ね上がるとそこからあゆみに向かって猛然と迫り襲い掛かる。
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