第55話
あゆみは煽りを喰らって後ろにそのまま倒れ込みそうになるが、グルンとバク転の要領で一回転すると態勢を立て直した。そして、剛霊杖に力を込めると、吹き付けてくる吹雪に向かって横に振りかざした。
すると吹雪はそのまま反転して氷の柱に跳ね返る。
ズーン!
ぶつかったと同時に凄まじい音が辺りに響いた。それと同時にあゆみは地面を蹴ると氷柱に向けて勢いよく杖を突き立てて念を込める。すると、
ガンッ……パキッパキッパキパキパキパキ、ガッシャーン!
ひび割れが広がって行き、破片となって散らばっていく。が、
その破片が中空に集まったかと想うと突然それらがあゆみの元へ凄まじい勢いで渦を巻き、彼を閉じ込めてしまった。中の温度は次第に下がって行き、終いには体表面が凍り付いてしまい、
ゴトンッ
音を立てて地面に転がってしまった。
「え?」
氷柱が割れてその音が耳に届いたのだろう。未だ虚ろな目をしながらもひみかが顔を上げた。そして、目の前に転がる物に気づきゆるゆると立ち上がるとその場に近づいて行った。
「こ、これって。まさか、ひょっとして……」
表面が白くなっていて分かりにくいものの、それがあゆみである事という事が彼女にも気が付くことは出来た。
「あ、あゆみ。な、なんてこと? わ、私。あ、あゆみを……」
そうだ。さっき、彼が自分のすぐ傍に近寄ってきていたじゃないか。その彼に何をした? 意識が判然とはしていなかったとはいえ、冷気を吹き付けて拒絶したのだ。
その彼は今生きている中で誰よりも好意を抱いていた相手だ。
そして彼も又、自分への好意を向けてくれていた相手でもある。
それに気づきながら彼女は向き合う事ができていなかった。理由付けとして自分が雪女だから、その向けられている好意が正しいものか自信が持てないと理屈をこねくりまわしたりもした。
でも、好意に正しいとか正しくないなんてことはないのではないか。私は彼が好き。彼も私が好き。それでよかったのに。なんでこんなことになったんだろう。
雪女の特性、それは男を魅了して誘い出し、終いには氷漬けにして魂を奪うとも言われている。雪女であることを否定はしないが、そうした部分は切り離したいという願いを想い秘めていたのに。
(結果的に私はあゆみに対してそれをやってしまった)
先ほどヘビに選択を迫られたときに、自分は母が雪女であることと、父が人間であることを否定ないとあれだけ見栄をきったのに。何故、それを自分とあゆみの間にあてはめられなかったのか。
それこそが、選ぶべき愛する人との交わり、関わり方だった筈なのに。
「あ、あゆみ。ごめんね……。私、君とまた話がしたいよ」
氷漬けになった彼の胸に縋り彼女は涙を一滴流した。
その涙が彼の身に降りかかると、それが光を放ち全身を覆っていき、次第に身体の表面に付いていた氷が溶けだしていく。途端にあゆみは、
「へっ、へっへっくしょん!」
とくしゃみをしてみせた。
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