第54話

氷柱に近寄ってみると、その中にはヘビの胴体が一緒に凍り付いていることが判る。


 とても傾斜が激しい切り立った崖のような氷の柱。その表面に形作られているデコボコの突起部分に手足を乗せてあゆみはゆっくりそれをよじ登っていた。


 寒さを感じないと言えば噓になる。でも、ひみかの事を想えばなんてことはなかった。


 完全な氷の塊を少しずつ掴み、手がかじかんで身が凍えるような冷気に晒されながらも、彼はものともせず突き進んでいく。が、


 ドンッガンッドンッ


「うわっ!」


 突然、上の方から大きな雪玉が下に向かって次々転がってきた。流石にたまらず持ち手の部分が手から離れて、真っ逆さまに落ちそうになる……が。


「剛霊杖!」

 

 一声叫ぶと杖をすぐ横の氷柱表面に鋭く突きさしてブレーキをかける。そして落ちてくる氷の塊に足を乗せて、トントンと上に登って行く。上りつめると、ぽっかり空いたヘビの口の中に飛び込んだ。


 すると、中は突然縦穴から横に広がる不思議な空間につながっている。


 恐らく人魂を通じてひみかとやりとりをした場所だろう。その奥からはひんやりとした冷気が吹き付けてきており、自分の行くべき道しるべとなっていた。暫く進んでいくと明らかにここより大きく広がる空間に先が繋がっている。


 ぽっかり空いた穴がその場所への入り口となっているようだった。あゆみは様子を伺うために身をかがめるようにして中を覗き込む。すると、所々大きな氷柱の中に閉じこもるように一人の少女が膝を抱えてうずくまっているのが目に入ってきた。


「ひ、ひみか! ひみか!」


 あゆみは慌てて声を上げながらかけよろうとするが、氷の壁に阻まれた彼女には耳に入らないようで、氷柱の中央からツララの束が襲い掛かる。


バッキッ―ン


 剛霊杖でそれらを弾き返し粉々に砕いて難を逃れるが一部の破片が右頬とこめかみをかすめ小さく切り傷を作った。更に直径3メートル程の巨大な雪玉が彼に向かって転がってくる。


「だああああああああああ」


 それをあゆみは気合一閃、真っ二つにした。

 

「はあはあはあはあはあはあはあ……」


 流石に、体力的には相当な消耗を要したらしく、肩で息をしながらも氷柱の傍までやってきた。


「ひ、ひみか! ひみか~!」


 彼は大きく声を張り上げて中のひみかに向かって声をかけた。が、中の少女は聞こえないのか膝を抱えたままその姿勢を変えようとしない。そこで、彼は氷柱に拳を作り小指側で思いっきり打ち据えながら更に声をかける。


ガンッガンッガンッガンッ


「ひ、ひみか! ねえ、気づいてよ。僕だよ、あゆみだよ!」


それが耳に入ったのだろうか、虚ろな目をして彼女は顔を上げた。


「あ、あゆみ?」


 彼女は彼の姿に気づくととても驚いた様子で声を上げた。


 ビュ~~~~~~~~~~


 と、同時に彼に向かって猛然とした吹雪が吹き付ける。

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