第53話
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ…………」
沼の中央にそそり立つ真っ白な氷の柱に向かってあゆみは走っていた。
ドンッドンッ
ドッガッシャッ~
途中そちらから飛んでくる雪玉や氷の塊を剛霊杖によって打ち払う派手な音を辺りに響かせながらも、彼は頭の中で思考を巡らせていた。
(えっと、とりあえず状況をまとめてみよう)
昨日、神社で帰り際にあさかから言われた言葉。
「私、ひみかさんが好きになっちゃったかもしれない」
というのは本心ではなかった。裏にはいまりがいて、そういう様に仕向けたのだという。しかも、そのように言っている裏で、ひみかに対してはあゆみに対して好意を持っているとも伝えたらしい。
いまりはひみかとあゆみの恋愛関係が中々進まないことにやきもきしていた為、敢えて恋のライバルを作る事により無理やりにでもお互いの事を意識させようという意図があったのだ。
実際のところ、自分はと言えばひみかの事をバリバリに恋愛対象として意識していた。態度にも表していた。でも、それに対するひみかの答えは、彼が満足するものではない。姉ぶって彼を弟として振る舞うという態度に出てくるというものだった。弟として愛情があるというようなことも言われた覚えはある。でも、
(ひみかは僕を好きでいてくれるのかな)
その真意について自分もストレートに聞くことを避けてきた。
何故と言えばやはり、100%の自信がなかったからだ。勿論、なんらかの好意をもってくれている実感はあるものの、その中身がどのようなものなのか確かめるのが怖かったのだ。
長い付き合いの幼馴染。家も隣に住んでいる以上、関係が壊れるのも怖い。彼女とそれでギクシャクして今までの様にお互い接することができなくなったら嫌だ。という想いがブレーキをかけていたのは事実だ。
でも、それは彼女も同じだったのかもしれないと想う。
(メア姐がやったことは、無茶苦茶な事かもしれないけど、起きた事を考えたら……)
そうだ。ひみかは自分が女の子たちに愛の告白されている所を見て、能力を暴走させた。
今日、一日の流れを見ても、自分の意識とは別に物を凍らせてしまったりと、明らかに様子がおかしかった部分がある。
あさかはそれを嫉妬だと言っていた。
(なら、見込みがあるのかな)
嫉妬したということであれば、それはつまり。ひみかは自分以外の女の子があゆみに対して好意を寄せたという事実に対してであり、それはつまり……。
自分の中で思考を重ねていた事により、外部への注意が疎かになっていた。ふいに、
ドンッという衝撃を腹に受ける。
小さな雪玉が当たったらしい、更にそちらへと視線を向けた瞬間。鋭くとがったツララが彼の顔めがけて突っ込んできた。
ザッ!
すぐに察知して間一髪顔面直撃は避けられたものの、瞼をかすめる。
「痛っ!」
思わずうめき声が上げる。当たった個所の傷は深くないものの小さく切れて血が噴き出していた。
「ふふふふ。何やってんだか。迷うことはないんだよね」
ヒリヒリとした痛みを感じながらも彼はそれをひみかからの気合入れと感じ取った。
そうだ、ここでヘタレたら意味がない。自分がやる事は一つなのだ。
そう想ったと同時に目的地の氷柱前に到着した。
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