第50話

 あゆみがあさかに抱き着かれて告白を受けている所を見せつけられて、ひみかの嫉妬心は爆発した。その為、無意識に能力を発動させたのだろう。ヘビの復中で辺りに冷気を振りまいたのだ。


 それを受けてダメージを食らったのだろう、ヘビは凄まじいうめき声を上げる。が、未だ行動不能にまでは至っていないようだ。


「メ、メア姐。ひょっとしてこれが目的だったの? でも、ヘビはまだ動けるみたいよ」


 流石にここへ来てあゆみもメアリーの思惑に気が付いたらしいが、その効果の程はというと未知数に思える。寧ろ、ひみかの危険を深めることにもなりかねないのではないか。


「ふん。まだまだ。これからさ」


 メアリーが言うと同時に今度はロールされて茶掛かった髪をたなびかせてあゆみに猛然と迫ってくる人影。


「み、美奈穂? ど、どうしたのさ」


 言われて鎌池美奈穂はそのままキキーッっと音をたててブレーキを踏むように彼の傍に佇んだかと想うと、うるんだような目を彼に向けて抱きつきながら言った。


「あ、あの……お兄様。私、昔からお慕いしておりました。是非、私とお付き合いしてくださいまし」


 親指をかみながら頬を染めてそんなことを言う彼女にあゆみは困惑する。


「え、えええええ。そ、そんな事言われても……」


 この流れからすれば美奈穂のそれも演技だということは自明なのだ。が、そうでありながらも、昔から妹の様に接していた彼女。しかも、その昔のイメージとはまるっきり変わっている姿で、告白されたという状況に頭が処理できず言葉を濁すしかない。


「へ、へえええ。あ、あゆみって。意外にモテモテなんじゃん。よ、よかったね~」


 輪をかけて状況を理解していないひみかは声を上げる。顔はニコニコとしながらも目が笑っていない。それと同時に、彼女の目の前に大きな氷の塊が出現して、


ビキッビキッビキッビキッ……、バッシーン! バッシーン! バッシーン!


大きな音を立てて四散したかと想うと沢山の破片となって辺りに降り注いだ。


「な、何をする。や、やめろ」


 反撃を企てていたらしいヘビも余りの光景に狼狽えているみたいだった。


と、そこへ、


「えっとぉ~、私~、そのぉ~、あのぉ~、特に理由はないけどぉ~。あゆみさんがぁ~好きになっちゃいましたぁ~」


 真に雑なセリフを吐きながらも真奈美がするりとあゆみに近寄ると、彼の頬に口を寄せた。実際はフリだけだったのだが、それだけで効果は絶大だった。


「な~~~~~~~~~~~」


という狐姿の守が顎を外さんばかりに叫びをあげたのは……ご愛敬、特に関係は無い。


寧ろその直後だ。守の悲鳴にも似た叫びをかき消すくらいの大きな音が、


ギンッ


と辺りに鳴り響く。


それも今度は人魂を介してではない。沼の奥の方から直接聴こえたかと想うと、一瞬の間があって凄まじい冷気と雪の礫がこちらに向けて流れ込んできた。


「な、なんだ。こりゃ……。さ、寒~」


あゆみはたまらずそれらを避ける為木陰に身を潜める。他の皆も祠の影や植え込みに隠れたりと様々身を守る態勢に入る。


「成功したようだね。これこそ狙い通りって奴さ」


「せ、成功って。メア姐。これって、まさか」


あゆみの呆れ声にも怯まずメアリーは沼の奥へと指をさす。


「ああ、その通りさ。ご覧、中々懐かしい光景じゃないかね」


「あ、あああああああ!」


あゆみは言われてそちらに目を向けると沼の真っ白い氷の柱が天高くつき立っている。そして、その氷柱を中心として冷気が広がり、辺りを氷漬けにしていくのが分かった。


「これって、つまり……」


 そう、その光景は二度起きており、幼心に彼も覚えている。それだけインパクトがあった出来事だったからだ。


 一度目は初めて彼女が百鬼夜荘にやってきた日に風呂場で起こした時。そして二度も目はあの連れ去り未遂事件の時に公園で起こしたもの。


「ああ、能力を暴走させたって事さね」


 あゆみの言葉を受けて満足げにメアリーは牙を見せて嗤いながら言った。

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