第44話

  

 パンッzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


 静かな夜の帳に乾いた音が鳴り響いた。


「むっんんんんんんんんん~」


 あきなが目の前で両手を打ち合わせ、浮かんでいる人魂に向かって力を込める。


 ぽわ~んという様な音がしたかと想うと、人魂の中にうっすらと人影が浮かび上がってきた。


「ひ、ひみか! ひみか聞こえてる?」


「あれ、変だな。あゆみの声が聞こえる気がするけど……」


 人魂の中の人影は段々色濃くなり、次第にはっきりとひみかの姿を浮かばせていく。彼女は不思議そうにキョロキョロと当たりを見回している様だった。


「気がするじゃないよ。僕だよ、人魂が近くに浮いているだろ。そっちを見てよ」


「あ! 本当だ。あはは、見える見える」


 言いながらひみかはこちらに向かって手を振ってきた。あまりに屈託ない様子にノンキだなと思わないでもなかった。が、ヘビの腹の中に唯一人残されている彼女の事を想うと、きっと心細かったに違いないのだ。


「ひ、ひみか。良かった……。無事だったんだね」


 いまりはあゆみを押しのけるようにして顔をだした。


「ああ、いまり。私は大丈夫だよ。心配しないでおくれ」


「心配するよ。しない訳ないじゃん」


 ひみかの言葉にいまりは少し涙ぐみながら答えた。


「逆にそっちの方はどうなんだい。みんなは無事なの?」


 自爆で倒れたナメ山アンリと未だ倒れたままのイノリを覗けばみんな問題なく動ける状態

 だった。


「アタシたちは問題ないさ。それより、あんたは今どうしてるんだい? どこかへ向かっててるみたいだけど」


 彼女の姿は人魂の中の限られた範囲の中なのではっきりとは分からないが、歩いているの

 察しが付いた。


「うん。そっちにも聞こえないかな。誰かから呼ばれてるような声が聞こえてきてるんだよ」


「誰かに呼ばれてるって? ヘ、ヘビの本体が声をかけてるってことかな」


 あゆみがそれに慌てたような声で答える。


「うん。そうだと想う。とりあえず、そっちに向かって歩いてみるよ」


「ちょっと待ってよ。とりあえず、一旦止まろう」


 意外なことを余りにも自然なことのように言うひみか。対してあゆみは驚いて彼女を押

 とどめようと声をかけた。傍にいれば手を引いて止められたというのに、なんてもどかしい

 のか。


「うん? どうしたの」


「どうしたのって、それっていきなり敵の親玉の所に行くことになるってことじゃないか」


 いきなりラスボスの元に一人で乗り込もうという彼女にあゆみだけじゃく周りの皆も口々

 に騒ぎ出す。


「あゆみの言う通り、それは危険だね。一人で闘うつもりかい?」


 中でメアリーが代表して彼女に言葉をかける。


「でもさ。そうは言っても他に手はないと想うんだよ。ずっとここにいる訳にはいかないしさ」


 彼女は腕を組みながら辺りに目を向けて言う。


「そうだ、例えば。氷のつららとかをつかって、中からヘビの身体を切り裂いて出れないかな」


 彼女の氷を操る能力を使えばそれでするどい刃物のようなものを作ることも可能であろう

 う。が、彼女の表情は色よいものではない。


「どうだろう? ヘビの身がどれだけ厚いかもわからないし。それに……」


「それに?」


「もし、切り裂いて外に出れても、そこは沼の中かもしれないじゃないか」


 確かに、ひみかが出ようとしていた箇所がヘビの身体が沼に浸っていたとしたら、そこに穴を開ければ水の中という事になってしまう。


「沼全体を凍らせるとかは、ダメかな」


 例えば沼を凍らせて氷の塊にした上で更に彼女の能力でトンネルのように穴をあけるということは可能ではなかろうか。」


「どうだろう、沼全体かー。余力があればやれないことはないかもしれないけど、何にしても対象が見えないと力を込められないんだよね。それに、なんにしても……」


「ど、どうしたの? あ……そうか」


 言った後、あゆみも気づいた。彼女は腕を組んでいるように見えたがそうではなかった。そうではなく、腕をさすっていたのだ。


 彼女は沼での闘いで相当能力を使っていた。でも、その間一度もあゆみと抱き合って暖をとっていないのだ。



「寒い。どんどん身体が冷えてるんだ。だから、あゆみ……」


「な、なに?」


 そう尋ねる言葉がついて出たが彼女が何を望んでいるか彼には察しがついていた。


「早く君の身体の温もりが……」


 しかし、その言葉の途中で人魂の姿がプツンと途絶える。


「え? ど、ど、どういうこと? あ、あきなちゃん?」


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、ご、ごめん。ちょっと、休憩させて」


どうも人魂を受信装置として使う術は相当な妖力を使うらしい。あきな今の交信だけでばててしまったようだ。



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