第42話
「ん……。こ、ここは?」
頭を振りながらひみかは目を覚ました。つい先ほどまでの記憶ではあゆみと氷らせた沼の上に立ってヘビと闘っていた筈だ。そして、彼の身体に舌が巻き付けられたので、その舌をかききった。そして、
「そうだ。ヘビに呑まれたんだった。という事は……」
ここはヘビの中だという事か。
よくよく辺りを見回してみるとぼんやりとした灯りが自分の傍に浮かび上がって辺りを照らし出していた。それはあきなの人魂だった。
「そっか。君、僕の為に着いてきてくれたんだね。嬉しいよ、ありがとう」
言って彼女は立ち上がると、人魂に対して手を差し伸べる。
「ふふ、改めてみると素敵な色をしているね。キレイな灯りだ」
目を細めながらそんなことをいう彼女、対して返事をするように人魂はふよふよ漂いながら青白い炎を揺らめかせて彼女の手の周りをぐるりと一回転。ヘビの体内にいるという異常状況でありながら、人魂相手にも自然にこのような仕草をしてしまうのは天然というべきなのか。
とはいえ、実際に彼(彼女?)がいなければ現状把握もおぼつかなかっただろう。ありがたい存在である事には間違いなかった。上は自分の頭のすぐ上辺りであり、ギリギリ立って動けるくらいの大きさ。燐光に照らし出されて周りは不気味にぬらぬらと照らす光を反射させていた。
横はというと淡い燐光に照らし出されたヘビの体内はまるで穴倉のようにぽっかりと開いた穴倉のように左右両方続いている、どちらも先は見えない。
恐らく普通のヘビの体内ではあるまい。全く揺れなどを感じないのだ。あのヘビが自分を呑み込んだ後に全く動かないなどという事は考えられない。という事は、ここは体内の中に疑似的に作られた空間なのだろう。
いずれにしても、この場に留まったままではいられないのだ。どちらへ進むべきだろうかと考えていると、
「おーい、おーい、おーい、おーい」
右の方から呼び声が聞こえる。
「ヘビの呼び声、石か……」あゆみが言っていたが、このヘビの身体は水族館にいたウミヘビが石を取り込んだからだという。ならば、石はまだ腹の中。この呼び声の先いる。
一瞬迷った。声がする方と反対方向は口の中に戻るという事になるかもしれない。
そうだとして、たまたま、口を開けたときに飛び出るという手もあるが、そこには鋭い牙もあるかみ砕かれたら流石に命はないだろう。それに再度呑まれてしまう可能性も否定できない。ならば、本体と直接対決する方が道は開けるかもしれない。
「よし、あっちへ行くよ。照らしておくれ」
表情は見えないが人魂は頷くように上下に揺れると彼女を先導するように進み始めた。
一方、あゆみはひみかが呑み込まれた光景を見て呆然としていた。
「ひ、ひみか。ひみかが……」
う わごとのようにその言葉を口にしている所へ再びヘビが頭を出して大きな口を開けて迫る。
「ひ、ひみかを。ひみかを返せ~」
言って彼はそのままヘビに向かって突進しようとした。が、
「何やってんだ。危ないだろ」
鋭い声が耳元で響き我に返る。
目の間に真っ白く大きな物体が現れたなと想い、よくよく見ると、それは狐の姿をした守の姿だった。上には真奈美も乗っている。
「あゆみさーん。加勢にぃ~、きましたよぉ~」
「た、大変なんだ、守。ひみかが、ひみかがヘビに呑みこまれちゃったんだよ」
「な、なんだってー!」
「わぁ~、それはぁ~大変ですねぇ~」
その言葉を聞いた狐と狸も思い思いの言葉で驚きを表現する。
「ど、どうしたらいいのかな」
余りに想定外の事にあゆみの頭は働いていないらしく、口からは焦りの言葉しか出てこない。
「と、とりあえず。一旦引こう。落ち着いて策を練った方がいい」
今のあゆみがこのまま闘っても冷静な判断ができるとは思えなかった。泥沼にはまる前に一度頭を冷やした方がいいという事だろう。
「で、でも。ひ、ひみかを助けなきゃ。置いておけないよ……」
とはいえ、あゆみも簡単にはそれに応じると言えない。
「いいから!」
言うが速いか守は大きな口で彼の服の袖にかぶりつくとそのまま上に大きく彼の身を放つ。
「うきゃあああああああああああ」
あゆみは天高く浮かび上がったあと、目をぐるぐると回しながら守の身体の上にドスンと落ちた。それを確認した守はヘビに向い見つめながら、
「縛!」
と叫んだ。すると途端にヘビがその身を固くしたように動かなくなる。
そのまま、二人を乗せた守は沼のほとりへ一目散に駈け出していく
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