第38話

「うわっぷっ……」


 イノリによる渾身の正拳突きを間一髪でかわし、距離を取る。


「イ、 イノリ~。ど、どうしちゃったの?」


 遠くから見ていたあさかが驚きながら駆け寄ろうとするところををいまりが押しとどめる。


「だ、ダメだよ。ち、近づいたら危ないって。あいつの目を見なよ。」


 彼女は一目見て我が弟の状態が異常であることを見て取ったらしい。


「え……。あッ!」


 そういわれてあさかもよくよく彼の顔を見ると、その目は赤黒く光っていた。恐らくヘビにより彼を洗脳状態にしているのだろう。


「あゆみ!多分イノリはヘビに操られてる。気を付けて」


「気を付けてって言っても、どうすればいいんだよ。イッくんっと本気で闘えない……」


 言い終わらない内に再度イノリが迫り、あゆみの腕を取った。


「しまった」という言葉を放つと同時に彼はそのまま投げ飛ばされる。


 ただでさえイノリの身体は大きく力は強い方だったが、そこまでの力はない筈だった。ヘビの影響により明らかに普段の彼が持つ身体能力以上の力が与えられてしまったようだ。


「うわあああああああああ」


 叫び声を上げながらそのまま大空にあゆみは投げとばされる。が、


「おっと。大丈夫かい?」


 空で待ち構えていたメアリーが彼の事を受け止めてくれる。


「メ、メア姐。ありがとう。でも、イッくんっが」


「ああ、ヘビの毒気に当たられたみたいだね、ああなっちまったら仕方がないさ」


 当のイノリはというと暫く空高く舞い上がっているあゆみを眺めていたが、突然向きを変えてあさか達がいる方向へ猛然と走り出した。


「まずいね。あゆみ、しっかり捕まってるんだよ」


「え?」


 あゆみが声を返したと同時にメアリーはイノリに向かって急降下したかと想うとそのまま突進する。


「うぐうううううううう」


 二人分の体重が乗った体当たりがさく裂し、流石のイノリももんどり打って前のめりに倒れた。


 ズザザザザザザッ


 音を立ててメアリーは足を地上に引きずるようにしてブレーキをかけて止まると、あゆみを降ろして言った。


「あゆみ、イノリはアタシが引き受ける」


「で、でも……」


「ふん。お前が相手しなきゃならないのはあいつじゃないかね」


 メアリーが顎をしゃくって指し示した先。沼の真ん中辺りに気づけばぶ厚い黒い雲が立ち込めていた。薄暗いくて見えにくいがよくよく見ると中にはヘビが身体をうねらせているのが見て取れる。


 更に、ガサガサガサガサガサガサ……。


 ジャポンッ


 辺りの草むらと沼の中から何かがはい出てきた。そこには本体より大きくはないが1メートルくらいある沢山のヘビたちの姿。


「ヘビ……いつの間に」


 その内の一匹があゆみに迫る。と、


 ズバンッ


 乾いた音がしてヘビの身体が真っ二つになる。美奈穂の仕業だった。


「この雑魚共は私等に任せなよ」


「お任せぇ~くださ~い」更に横にいた真奈美がポンポコポンと腹鼓を打ってその身を大きなハンマーへと変身させる。


 そしてその隣にはヘビと同じくらいの白い狐が控えて細い目を光らせて臨戦態勢を整えている。元の姿に戻った守の姿だった。


「あゆみ行くんだ。イノリの正気を取り戻すにも、あれを何とかしとくれよ。時間稼ぎはアタシがするさ」


 メアリーの目は赤くランランと輝いており、手の爪が長く伸びていた。


「そうよ。ここは私らに任せなさいって」


 気が付くとあきなもイノリの前に立ちはだかりメアリーと二人で彼を挟む形になる。


「わ、分かった。二人共お願いするよ。ひみか、一緒に来てくれないかな」


「うん、勿論だよ。行こう」


 ひみかは頷くとあゆみと共に走り出す。


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