第35話
百鬼夜荘には既にヘビがイノリを連れ去った事を知った住人たちが食堂に控えていた。
「全く、偉いことになったみたいだね」
「イノリが連れてかれたって一体、なにが起きたの?」
厳しい表情で言うメアリーの言葉に心配顔であきなが被せる。
いまりとイノリの望月姉妹は幼い頃から良くここに出入りしていた。
父は先祖代々の神社を受け継いだ神職。それを支える母も何かと立場たらかなければならない立場だ。
子供の世話に手が回らない時も多々あり、そんな時はここへ預けられていたのだ。
この百鬼夜荘には叔母に当たる須磨子やまだ存命だった多津乃。それにあゆみやひみかといった同年代の子供に加えて住人が誰かしら常に居た。そして彼ら彼女らは元々妖怪でありながら人との関わりを持ちたくてやってきたモノたちだ。
更に以前も書いたように、妖怪の存在は人のイマジネーションや感情に大きく作用される部分がある。
故に感受性が強い子供を好むのモノも多い。
そんな訳で彼女等はイノリを赤ん坊の頃から可愛がっていたのだ。そのイノリが行方知れずになったと聞いたのだから
無理もない反応だろう。
「ごめん。僕が不甲斐ないばっかりに」
既にひみかやあさかにも何度かそうしたように、あゆみは面目ないという様子で俯きながらいった。
「別にあんたを責めてる訳ないわよ。ただ、身内に手をだされた以上はこっちとしても黙ってらんないからね」
「ああ。元々協力する約束はしてたけどね。こうなったら全面抗戦だよ。ノンビリはしてらんない。みんな覚悟は良いね?」
食堂には、緊急招集をかけられた美奈穂、真奈美、陣八、シロ、アンリらが揃っていた。
「イノリは舎弟みたいな奴だ。それを連れ去るなんて、舐めた真似してれんじゃねえか。ヘビとやら、ギッタンギッタンにしてやるよ……ですわ」
美奈穂もイノリとは昔馴染だ。幼い頃には一緒に外で駆け回った遊び仲間でもある。相当起こっている様だった。
「おっきなヘビさんですか~。はわわわ、妖怪大戦争みたいですね」
横にいた真奈美も内容は呑気な言葉を口にしながらいつになく緊張感を漂わせていた。
「とはいえ、どこにいるのかまだつかめていないんでしょう。当てはあるの?」
アンリが当然の疑問を口にする。
「はっきりはわからない。でも、戻るとしたらあの沼の傍だとは想う」
あゆみの言葉に陣八が答えた。
「うむ、それは間違いなかろうな。ヘビは修行を長年歳を経ると龍になる事ができる。彼奴もあの地に棲みながらそれを目指していたのだろう。時に人を食らいそれを力にしながらな。」
長年生きた蛇は蛟という存在になり、最後には龍へと変化するいわれている。ヘビは果たしてどのくらいの段階にあったかは分からない。が、玉となったヘビが人を呼び、その人は願いを叶えた事引き換えに命を取られた。という事を考えると、人の欲を呑み、邪龍となることを目的としているのかもしれない。
「やはり、あそこが一番相応しい場所ということですね」
言ってあゆみは今朝に訪れたあの沼の事を思い浮かべながら言う。
「うむ。復活した彼奴も未だ龍になる事をあきらめてはいまい。玉と化して人を呼びその欲望を食らい邪龍となる事を目指したのだろう。彼奴にとってその為の行場だ」
「じゃあ、あゆみちゃん。私がそこに行っておびき寄せるっていう案は?」
「おびき寄せるって言っても、確実に出てくるっていう保証があるわけでもないからな~。ヘビを呼ぶ方法があるなら別だけど」
腕を組んで思案するあゆみに対して陣八が言った。
「ふむ。ヘビを呼ぶ方法か。思い当たるのは……」
「陣八様、心当たりがあるんですか」
「うむ、口笛だ。夜、口笛を吹くとヘビが出る。昔からの言い習わしを聞いたことがないか?」
「あ、私。聞いたことがあります。亡くなった祖母が良く言ってました。ヘビが出るから夜は口笛を吹いちゃいけないよって。じゃあ、私が口笛を吹けばいいのね。今からでもすぐに行きましょう」
あさかは、よっぽど気が逸っているのだろう。このまま行くとすぐにでも走って現地に向か
いそうな勢いだった。
「まってまってまって。そんな早まっちゃだめだよ」
それに対してあゆみは慌てて押しとどめるように後ろから羽交い絞めにする。
「急がなきゃダメっていう話だったじゃない。まだ、止めるつもり?」
それに対して身体をバタバタとしてもがき抵抗するあさか。
「そんなことはいってないよ。こうなったらあさかちゃんにも手伝ってもらおうと想う。でも、身の安全も図ってもらわなきゃいけないし。それに、ヘビが復讐したいという相手はあさかちゃんの家だけじゃない。何より一番恨んでいるのは金鞠家の僕だろうからね」
「じゃあ、二人揃って口笛を吹きにいきましょうよ」
「うん。その為にもまずは入念な準備をしてからだね」
身体を密着させながら話す形になるあさかとあゆみ。
とそこへ、ギンッ
と音が鳴り響く。
「な、なになに?」
「凄い音がしたね、なんだい?」
「ヘビ? ヘビでも攻めて……つめたっ」
みんなが慌てて口々に言葉を放つと、
「いや……。あの、ごめん」
それに対してひみかが謝罪の言葉を口にする。
彼女はそれまで考え事をするようにテーブルに頬杖をついていた。
が、そのテーブル全体が冷え冷えの氷漬けになっていたのだ。
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