第31話
三人が謝った事をひみかも確認したらしい。
ひみかが術を解き、各々凍り付いていた部位の氷を薄くしたようだ。
「ほら、力を入れたらもう、離れるんじゃないですか」
あゆみの言葉に恐る恐る二人は腕と足を動かすと、いままで貼りついていた部位がピキッ
と軽く音を立てて離れていく。
「は、離れた。ひっ、ひいいいい」
「に、逃げるぞ~」
「さいなら~」
未だ少し残る氷の塊を踏みしめ、姦しい叫び声を上げて三人は一目散に逃げだした。
それを後目にあゆみが尋ねる。
「あさかちゃん。大丈夫だった?」
「うん。ごめんなさい。寧ろ、良かったのかな。私が悪かったのかもしれないのに」
その立ち居振る舞いからは余り意識できないが、なんだかんだいって彼女はお嬢様だ。育ち
の良さからか、この期に及んで自分に非がなかったかを気にかけているようだ。
「ふん。自分より小さい女の子にちょっとぶつけられたくらいで、怪我するわけがないっす」
「そうだね、十中八九、体の良いカツアゲだったろうね」
まだ少し青ざめた顔をそれでも緩ませてほっとしたようにあさかが言う。
「怖かった~。あゆみちゃんがいてくれて良かった」
あさかはあゆみの手を取って握り締めて顔を近づけながら言う。
すると、ギンッと音が鳴って先ほど男たちをくっつけていた氷の残骸が膨れ上がり氷の塊
が出現した。
「ひ、ひみか?」
あゆみは察してすぐ傍に近づいてきていたひみかに声をかける。
「あ、あれ? お、おかしいな。何してんだろう、あたし。か、片付けなきゃね」
言ってひみかは残った氷の塊に力を込めて消した。日頃クールな彼女と明らかに様子が違う。
「ど、どうしたの? ちょ、調子でもわるい?」
あゆみは心配そうに尋ねた。
「ううん。そういう訳じゃないんだけど……」
首を傾げるひみかに対して、
「と、とりあえず。行こうか」
「う、うん」
言われたひみかは詳しい説明をせずともその言葉の意味を察した様で、このフロア内で薄暗く人目に付かない柱の陰に隠れた。そして、
「ん……」手を伸ばすあゆみに「うん」と頷いて抱きよるひみか。
抱き合うタイミングはばっちりだ。状況からすれば水族館の死角に隠れていちゃつくカップルの様にも見えるかもしれないし、見た目からすれば仲の良い姉妹がスキンシップをはかってる様にも見えるかもしれない。
「助かったよ。タイミングもばっちりだった」
「イノリが気を引いてくれたお陰さ。私、一人だったら動けたかどうか……」
「そんな、らしくないじゃん」
「そっかな。いや、あさかちゃんが手をつかまれている所を見たら昔の事思い出しちゃって」
そう言うひみかの顔は少し曇り、身体も震えている様なのだ。その震えも寒さによる震えとは違うように感じる。
「昔って……そっか」
言いかけて気づく、
その様子を見て、ようやくあゆみは思い当たった。彼女は幼い頃、公園で連れ出されそうになったことがあるのだった。
普段、それを気にしているような素振りはないが、やはり同じような状況を見て思い出してしまったのだろう。軽いトラウマのようなものなのかもしれない。
「ご、ごめん。気づけなかった」
「ううん。別に自分でも気にしてるつもりはなかったんだけどな。へ、変だよね、昔の事ひきずったりしちゃってさ」
「変じゃないよ。全然、変じゃない……」
沈み口調でいうひみかを抱きしめながら、あゆみは優しく囁きながら、背中を軽く掌でポンポンと叩いた後、髪を優しく撫でる。
「あ、あゆみ……わ、私」
以前そのようにされたら、自分こそがあゆみを甘えさせる方だと主張していたが、今のひみかはされるに任せていた。顔も真っ赤になっている。
「うん?」
そう返事をして見返す顔と顔。目と目があって、暫く黙る二人。と、そこへ、
ぶぉ~ん
鈍い音があゆみの懐から聞こえてきた。
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