第24話
その日の夜、あゆみは住人が揃う中で昼の出来事を話した。
「大蛇の石か、アタシたちがここに来る前の事だね。でも、聞いたことがあるよ」
メアリーは顎に手をやり自分の脳みその中から遠い記憶を呼び覚ますような顔をする。
「しっかし、正敏も相変わらずね~。ここぞって時にぎっくり腰なんて」
あきなが呆れるような顔をしていった。
望月正敏とその弟である敦教、金鞠須磨子は幼馴染だ。
敦教と須磨子は同い年。正敏はそれよりいくつか年上。
最終的には敦教が養子に入る形で須磨子と結婚したが、望月兄弟がまだ子供の頃はよく連れだって百鬼夜荘へ遊びに来ていた。故に住人は正敏の事を昔から知っている。
「あらあら。お義兄さん。昔っからそそっかしい所があったのよね」
のんきな顔で頬に手をあてながら須磨子はいう。
「人一人さらわれる所だったんでしょ。助かって本当に良かったよね」
そして、あきなは更に辛辣な言葉で言い募る。
「おじさんは相当へこんでたみたいだよ」
あの後、夕方過ぎ頃までひみかはいまりの部屋に居た。
帰る時に正敏に挨拶をしようとしたが、人に見せられる状態ではないとのことで直接会うことはできなかった。
「あらあら。珍しいわね、昔っからちょっと失敗しても、すぐにケロッとしてるイメージだけど」
須磨子にとって、子供の頃から正敏は明るく楽しいでもちょっとドジなお兄さんという感じだ。その彼が落ち込んでいる様が想像できにくいのだろう。
「いやいや、そりゃそうでしょ。そもそも、3つの石も一つに戻っちゃったわけだし」
対してあきなはキツイ口調で続ける。彼女は正直チャラけた正敏のことをあまり好いていない。
すると更に続けて須磨子は口を開き、
「…………ヘビの石が元に戻ったのですね」と言う。
「そうだよ。まずは、石がどこへ行ったのか、探さな……」
あゆみは母の言葉に普通に返しそうになったが途中で違和感に気づく。
「あなたにそれを強いるのは心苦しいのですが、仕方ありません。石の再封印を頼みます」
その言葉は母の口から放たれたものだが口調がいつもと違う。
「ふむ、多津乃か。久しいな。」
対面に座っていた紺のスリーピースを着た男が黒縁メガネをクイッと上げて言う。
見た目は三十代だが、その正体は天狗の大長老白倉陣八。
あゆみはその言葉を聞いて驚きの声を上げた。
「ば、婆ちゃん? 」
婆ちゃんとは、彼の祖母金鞠多津乃の事だ。
そして母の金鞠須磨子は霊媒体質である。
多津乃は須磨子の身体を借りて現世にもどってきたらしい。
「ええ。そうです。多津乃ですよ。みんな元気そうでなによりですね」
それを聞いた他の面子も各々が口々に声をかける。
「旧交を温めたいところですが。あまり時間をとることはできません。須磨子の身体にも負担をかけてしまうしね」
「わかったよ。で、ボクはどうすればいいの? 石の在処もまだ分からないんだけど」
「剛霊杖を使いなさい。元々大蛇が居た池のほとりに祠が残っているはずです。そこへ剛霊杖を持って行けば道を示してくれるはずです」
「うん。わかった。で、石を見つけた後は? 」
「砕きなさい」
「どうやって? 」
「剛霊杖を使いなさい」
「万能なんだね。剛霊杖って」
「ええ。使い方によってはナイフやハサミ、ドライバー、のこぎり、から栓抜きの役まで果たすのですよ」
「十徳ナイフみたいだな~。先に知っておきたかった」
そう言っては見たものの、冗談かもしれない。こういう意味のないことを話に混ぜる人なのだ。
「それだけではありません。探索をしても1日ですぐに見つかるとは限りません。日が落ちて暗くなり、明かりが必要になるかもしれないでしょ」
「ま、まさか……それも? 」
「その時は……。捜索を中断してお家に帰るんですよ」
「あ、そこは剛霊杖使うんじゃないんだ」
「あなたはまだ子供なんだから夜表に出るのは良くありません。必要以上に無理は禁物です」
「こ、子供って。僕ももうすぐ高校生だよ」
「もうそんなになるんでしたか。でも、それでもまだ子供ですよ。一人で動くのも禁物です」
「安心して、お婆ちゃん。私があゆみと一緒についていくよ」
二人の会話の中にひみかが割って入る。
「ひみか。あなたは大きくなりましたね。ありがとう、あゆみをよろしくお願います」
「うん。任せてね……」と言った後、更に「た、多津乃お婆ちゃん……」と続けようとしたが言葉につまる。多津乃があちらに行く前まで数年間は一緒に暮らしていたのだ。万感の想いがこみあげるが、それを伝えるにはあまりにも時間が少ない。
それに気づいたのか、多津乃は「ひみか」と声をかける。
そして多津乃は須磨子の身体を借りて、優しく片手でその肩を抱く。
更に「あゆみ」と言って反対側の手であゆみの身体も抱き寄せた。
「二人共頑張ってね。本来は私がやらなければならない事ですが、託させてもらうわ。お願いしますね」
言ったかと想うと須磨子の身体はガクンと前のめりに一度崩れた。
「……お母さん、帰ったわ」
須磨子は中空を向きながら、わが息子と娘同然の少女の身体を優しく抱き続けた。
「うん。母さんは身体大丈夫? 」
「これくらいの時間なら大丈夫よ。それよりあゆみ、本来なら私がやらなきゃならいことかもしれない。あなたに押し付ける形になってしまってごめんなさいね」
多津乃の娘である自分が負うべき事なのにそれを息子に任せなければならない。そんな忸怩たる想いが伝わってくる。
「いいんだ。僕が選んだことなんだから。任せてよ」
彼が女装をしてでも霊能者としてふるまう。それは身体の弱い母の為という部分もあることは間違いない。でも、それだけではなかった。
「ひみかちゃんは大丈夫? 」
慕っていた多津乃との思いがけない再会。ひみかにとってそれは幸運以外の何物でもない。
でも、ほんの短い時間。しかも、須磨子の身体を借りてのものだ。余計寂しさを募らせる結果になりはしまいか。
「うん。須磨子さんありがとう。お婆ちゃんと少しでも話せて嬉しかった」
しかし、その心配は杞憂のようだった。つい先ほどまで感極まり、涙声をだしていたひみかだったが、既にその様子は消え、「あゆみ、精一杯サポートするからね」
いつものキリッとした彼女に戻り言う。
「ありがとう、頼むよ。とりあえずイッくんにも連絡して、朝から探索を始めよう」
「1日で見つかればいいけど。夜はダメだってくぎ指されちゃったしね」
余りのんびりはしていられない。あさかの一件を考えれば、他に犠牲者が出てしまう可能性もある。
「心配しなさんな、未成年に日が落ちてから徘徊させるわけにもいかないやね。夜はアタシが引き受けるよ。眷属のコウモリに見て回らすさ」
言って、メアリーはあゆみに対してが胸を叩いた。
「メア姐、ありがとう。協力お願いするよ」
「アタシ達にもできることがあったら言ってね」
あきなも重ねて申し出るが、
「へへへ、俺、協力してもいいんだけど。何かお礼は……」
修二が下卑た笑いと共に迫るのをみて、
「あんたは又そんな事言って! そんなんだったら協力の必要なし」
と激しい口調で言った。
「なんでだよ。お前さんが決める事じゃないだろうに」
そんな二人がいつものように言い合っているを他所に、白倉陣八が静かに言った。
「私からも配下の天狗共に情報を収集するように伝えておこう。何かあったら教えてやる」
「ありがとうございます、お願いします」
あゆみはペコリと頭を下げるた。そして、
「あ、後、美奈穂と真奈美には別に頼み事っていうか伝えておきたいことがあるんだけど……」
向きを変えて狸娘とイタチ娘の二人に声をかける。
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