第22話

 あゆみが飛び出すと向井鉄平の後ろ姿が目に入る。

「向井さん! 玉はどっちの方に? 」

「あゆみちゃん、あそこだ。階段の方」

後ろを振り向き指さす先の中空。

確かにそこにモヤ掛かった石の姿がある。

「届くか? 」

彼は神社の大階段の一番上まで到着すると思いっきり足を踏みしめて飛び上がり大きくジャンプする。

すぐ真上には石が浮いていた。

彼はそれを視認しながら巫女装束の裾から30センチ程の木の棒を取り出して叫んだ。

「剛霊杖っ」

祖母から受け継いだ退魔の杖、剛霊杖だ。あゆみが霊力を込めることにより光を放つ。

そしてその光の帯で石をとりまくモヤを一閃。

それによりモヤが少し晴れあさかの身体の一部が見え隠れした。

が、そこでジャンプの威力が落ちた。そのままあゆみの身体は落下し始める。

「くそっ……。届かないか」

下に落ちた後にもう一度飛び上がろうとしても間に合わないかもしれない。

(どうする? )想ったところで、

「あゆみ! これを使うんだ」

ひみかの声が聞こえた。

(え? )と思っているとドン、ドン、ドンと大きな音がした。その方向に目を向けると階段脇に生えている木の横腹に何本か氷の柱が突き刺さっていた。


 いつの間にか下に姿を現したひみかが足場を作る為に用意してくれたようだ。


「サンキュー、ひみかっ」


ダン、ダン、ダン!


彼は3つの氷柱を砕きながら踏みんだ。

そしてその勢いにのって石と同じ高さまで跳ね上がる。


「だあああああああああああああ」


そのまま剛霊杖を一閃。


 すると、途端にモヤが一気に晴れた。そしてあさかが姿を現すしたかと思うと、そのまま彼女の身体が落下を始めてしまった。どうやらモヤが彼女の身体を浮かせる役割を果たしていたようだ。


 「あさかちゃん! 」叫んだあゆみは何とか一旦は空中でその身を受け止めることに成功。


 そして、未だ残っている氷柱の上に降り立った。

が、あゆみは態勢を立て直そうと想ったが、氷柱には徐々にヒビが入って行く。


ミシッミシミシミシミシッ


不吉な音に身をゆだねながらあゆみはこの場をどう切り抜けるか思考を巡らせる。


が、「ダメだ……、持たない」


彼一人なら地面に降り立つ自信もあった。

が人一人抱きかかえたままとなると、あさかを無事に下ろせる自信がない。


「くっ…………ううううううっ」


焦れば焦るほど自然と足に力がこもり、結果。


バキッ


凄絶な音を立てて氷柱はボッキリと砕け折れた。


結果あゆみはあさかの身体から手を放してしまった。


ドスンッ


程なく地面へ落下するものの、無意識にスタッと何事もなく足から舞い降りた。


「くっ……あ、あさかちゃん! 」


「大丈夫。心配ないよ」

すぐ横にはいまりが立って指をさした。


 その方向をみると、階段下には1m四方程だろうか雪の層が作られおり。その上でひみかがあさかを抱きとめている。


 ひみかが雪でクッションを作りあさかを助けたのだろう。


「大丈夫かい? 」 ひみかは心配そうな顔であさかを覗き込みながら言う。

「あ、ええっと。はい……。え、ひ、ひぁ、ひああ」あさかの方は一瞬状況が呑み込めず、反射的に返事をしたようだが抱きすくめられている事に気づくと意味不明な奇声を発した。

(イ、イケメンさんだ~。でも、お、女の人だよね? で、その人に私抱きしめられてて……)

 余りにも短時間に色々な事が起こりすぎていた為内心ではパニックになりそうだった。が、今自分は安全な状態にあるということだけは理解し、平静を保とうと努力する。

「ああすまない。誰だか分からない奴に触られて嫌だったよね」

 ついついあさかは(そんな事はありません。まだ、このままでも……)と言いそうになるが、ひみかは優しくあさかの身体を雪の上に下ろした。 

 下から見上げるひみかの身体は雪が日に照らされてキラキラと光を帯びている。 

「いえ、全然、全然。た、助けてくれたんですもんね。ありがとうございます」

「どういたしまして。自己紹介が遅れてすまない。私は安満蕗ひみかだよ。よろしくね」

「安満蕗ひみかさん……」

その名を言われてあさかは一瞬考えこむように黙った。

「どうかした? 」

ひみかはその様を不思議そうに見つめる。

「いえ。あ、ありがとうございました。私は向井あさかといいます」

「どういたしまして。あさかちゃんだね。どこか痛むところはないかな」

ひみかが彼女の名前を口にしただけで、ドキドキがとまらない。

「えっと、だ、大丈夫です。あ、足がちょっと痛むかも」

「本当かい? ちょっと見せてくれるかな? 」

ひみかはきりッとした顔になり、あさかの足を丹念に探る。

「ああ、脛のあたりが青くなってるね。ごめん、ちょっと触らせてもらうよ」

「へ? あ、は、はい」

どこかをぶつけて青あざを作ったらしかった。その部分に手を当てて軽く冷気を放出する。

「っつっ……」

「すまない。痛かったかい? 」

「いえ。その、きも……大丈夫です」

一瞬気持ちいいといいそうになったが、なんだかそれを言うのが気恥ずかしくて言葉にできなかった。

「とりあえず、応急処置だけはするね。あまりひどいようなら病院へ行った方がいいよ」

言ってハンカチを取り出すと幹部に巻いた。

「大丈夫ですよ。ちょっとぶつけたくらいだと思いますし」

「そうかな、ならいいけど。綺麗な足だからね。大事にしないと」

言って、もう一度その部分を人さすりした。

「ひゃ、ひゃいっ」

何度か触れているのに、全然慣れない。顔を赤くしながらまた変な声を上げてしまう。

と、そこへあゆみが声をかけてきた。

「ひみか、あさかちゃん。大丈夫かい? 」

二人が長い事雪の上にいるので心配になったのだろう。

「あ、あゆみちゃ~ん。大丈夫だよ~」

あさかは元気一杯に返すがその言葉をきいてひみかは面食らった。

「あ、あゆみちゃん? 」

「はい、さっき仲良くなったんです。お知合いですか? 」

「うん、家が隣でね。幼馴染なんだ」

「へ~。それで仲が良いんですね。羨ましい」

又、そのまま話が始まりそうになった所へ、今度はいまりが声をかけてきた。

「ねえ。とりあえず、降りてきたら? 」

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