第14話


 恋愛ドラマが大好きなあいりが一番気になっている恋愛模様。

そんな、彼女がリアルで長期に渡って気になっている事。

 それは勿論あゆみとひみかの間についてだ。


 あゆみは彼女の従兄弟で幼い頃から一緒に育ってきた。

 ひみかも同じくらい長い付き合いの親友同士。

 この二人の関係をずっと身近で見てきていて、しかも他人の恋愛事情が大好きないまりが気にしないわけないのだ。


 ただ、あゆみは金鞠家の血筋が影響しているのだろうか、いまりの能力が効かない。

 それは、半分妖怪の血が流れているひみかも同様。

 二人の胸中を知る術がない。


 だからこそ、余計に気になってしまうのだ。

 お互いに好意を抱いていることは分かる。

 ただ、それがどれほどのものなのか。

 どの様な種類なのかが量りかねた。


 勿論、いまりが気にかけているのは、二人の恋愛に発展するようなものなのかだ。

 あゆみは分かりやすい。はっきり気持ちを聞いたわけではないがひみかを恋愛対象と手見ているのは明白だった。


 が、ひみかの気持ちがわからない。

 彼女等の関係性を考えれば、それは家族愛、兄弟愛、友愛などどれでも当て嵌まる。事実、ひみかはあゆみに対して「好きだ」と言いながら、表向き姉のような態度で接している。


 それが、ひみかの本心なのか。照れ隠しなのか分からない。

 長年見守ってきたいまりも流石にしびれをきらしてきた。

そして何とかこの関係を進展させる術はないかと思案を巡らせているところなのである。


 「でもさ。それでいいの?もう高校生になるんだし、彼ピ作ろうなんて思わないの?私たち女子高生だよ、女子高生。別に男の人嫌いって訳でもないでしょうに」


 それに対してひみかは寂しいような、悲しいような、表情を見せて言った。


 「別に男性が嫌いって訳じゃないよ。でもね、私は半分雪女なんだ」


 「うん。それは知ってるけど。それがどうかしたの?」


 「雪女っていうのはね。昔から魔性の者と言われている。男を惑わし最後には命を取る存在なんだよ」


 「そんなの、言い伝えでしょ。だって、ひみは雪女がお母さんでお父さんが人間。問題なく生まれて暮らしてきたんじゃないの」


 「まあね。私が生まれて暫くは何事もなかったんだ。でも、ある日父さんは雪崩に巻き込まれて死んだんだ。雪のせいで命を奪われたんだよ」


 「そ、それって……」


 「幼い頃の事だし、実際の状況は私の良く分からない。勿論、それが母さんのせいだとは思わないよ。でも雪女の母さんと一緒になった父さんが雪で死んだ。それも事実なんだ」


 「考えすぎとは思うけどなあ」


 いまりは口にしながらその言葉の内容に根拠がある訳ではない。


 その事が彼女の心に棘のようにしてひっかかっているのかもしれない。


 「私、連れ去られそうになったことあったの覚えているかい」


 「ああ、あったねー。そんなこと」


 小学校2年のことだったか。


 子供何人かで近所の公園を起点にしてかくれんぼをすることになった。


 そう、丁度今くらいの春先のこと。


 冬の間に枯れていた木や草が青々とした葉を茂らせ、公園の花壇にも色とりどりの花が咲き誇っている。


 その時はひみかが鬼であゆみ、いまりを含めて他の子供達は逃げて公園から遠ざかっていた。


 十数えてこれから皆を探しに行こうそう思って駈け出そうとした時に、知らないおじさんが声をかけてきた。


 「綺麗なお嬢ちゃん。ごめん、道を聞きたいんだけど。知ってるなら連れて行ってくれないかな」


 言って地図を見せる。目的地はこの公園からほど近い家だ。


 当時のひみかは今より髪も長くしていてどこから見ても完璧な美少女だった。


 だからということもあり、保護者だった金鞠多津乃を含めみんなに口をすっぱくして言含められていた。


 「知らない人にはついていっちゃいけない。何かあったら大声を出して逃げなさい。知り合いの家があればそこに駆け込みなさい。交番が近くならそこで助けを求めるように」


 幼い頃の彼女にとって特に多津乃は絶対的な存在だったから、幼心に強い警戒心を持っていた。そして、助けを求めるようにと言われていた交番の場所も記憶していた。


だから彼女は交番の場所を伝えてその場をしのごうとしたのだ。


 すると男は豹変し、ひみかの手をつかんで無理やりどこかへ連れて行こうとする。


 そこから記憶がない。


 気づくと公園一帯が氷漬けになっている光景が広がっていた。


 そして、あゆみを始め百鬼夜荘の住人達が寄り添ってくれている。


 その脇には完全に氷の塊と化した男が横たわっている。


 解凍後男は警察に逮捕された。あの地域に仕事で何度か行き来していて、たまに公園で遊んでいるひみかの姿が目に付いて、


 「仲良くなりたかった」と供述しているらしい。


 「あの時に事は今でも怖いよ。誘拐されかけたことも、それによって洒落にならない規模の暴走起こしたことも含めてね」


 「そうだったね。でも、正解だったんじゃない?無理やり手をつかんでどこかへ連れてこうとしたんでしょ。いい気味だよ」


 彼女は基本的に来るもの拒まずだが、やはり常識の範疇というものはある。


 幼女にいい大人が無理やり迫るなんてことが許される筈がない。


 「勿論、あの男に対してやったことは自分でも悪いとは思わない。ただね、想ってしまうんだよ。ひょっとして、あの男が私に寄ってきたのは私が雪女だからじゃないかって」


 男を誘う魔性の能力。いや、体質というべきなのか。


 いまりのように無制限に誰彼構わず愛情をぶつけられるというものとは違う。


 場合によっては迷惑な相手も引き寄せてしまう。


 それがひみかにも宿ってしまっているという不安は彼女を未だに苛んでいるのかもしれない。


 事実はともかくこの一件がひみかに及ぼした影響は大きかった。


 以降彼女は長い髪をバッサリ切ることになる。


 スカートもほとんど履かなくなった。


 女性的とされる振る舞いを敢えて抑え口調も少しづつ変わっていったのをリアルタイムでいまりはみている。

 

 男性からも異性として意識されにくくする。


それは誰に強制されたわけでもなく、彼女が選び取った選択。


 だから、そのように振舞う彼女をいまりは自然に受け入れる。


 周りにもそうするように働きかけていった。


 中学では一部で王子様と呼ばれるようになったのもそんな流れからだ。


 しかし、それはあゆみとひみかの関係に大きな影響を及ぼしていることも明らかだった。

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