第13話

「そいや、あゆからホワイトデーは何貰ったの?」


 今年の2月には二人ともあゆみにバレンタインチョコを送っていた。


 いまりは業務用スーパーで買った徳用チョコ詰め合わせ。これはあゆみの為だけでなく数いる彼女のボーフレンドに配る分も含んだ内の一つ。


 対してひみかは手作りのトリュフチョコレート。あいりも友チョコとして貰いお相伴に預かったものだ。


 「ああ、あゆみはアイスケーキをくれたよ。しかもホールで。なかなか美味しかったね」



 ひみかは性質上やはり冷たいものが好きだった。なのであゆみからのホワイトデーお返しは氷菓子などが定番だった。


 去年のお返しはアイスキャンディの詰め合わせだった事を考えると、今年はグレイドが上がったと言える。


 小さめながらホールケーキ丸々は一人分としては多め。だが、甘さ控え目のティラミス味で、飽きのこない味わいだった。

 それなりに日持ちもするので、数日かけて楽しんでいる。


 「私の事をちゃんと考えてくれてるのが伝わってきたよ。嬉しい事だね」


 「へえ、アタシへはおせんべいの詰め合わせだったよ。扱いに差がを感じるなー」


 言葉の内容に比べて、響きに不満は感じられない。


 彼女はフランス人形みたいな風貌だ。しかしその実、食べ物は渋好みで和食や和菓子が大好きである。洋菓子も食べられない事はないが、好んではたべない。


 そんな彼女。バレンタインには男女問わず色々な物を貰っていた。好みを知らない相手からはチョコやクッキーなどの洋菓子も多い。


 貰える物は有りがたく貰うのが主義だが、消化するのに一苦労だ。


 その代わり、


「本命のダーリンには好きな物をねだるけどね」


 などとも言っているが、その本命のダーリンとやらが果たして何人いるのか。


 まあ、そういった訳であゆみのチョイス。いまりにとっても満足いく内容なのだ。


 ひみかとのグレードの差こそあれだが。


「でも、あゆからはそれだけだったんだよね」


 「それだけって?全然、充分過ぎるよ」


 「くれた時になんか言ったり言われたりとかはしなかったの」


 「そりゃあ、バレンタインチョコありがとうって言ってくれたけど」


 「じぁあさ、ひみはチョコを渡す時に何か言わなかったの?」


 「別にいつも通りさ。キッチリ愛を込めて渡したよ」


 「愛を込めて、ね」


 既に触れている通り、あいりは沢山の人々に好意をぶつけられる立場にいた。


 自分が望まなくても、ありとあらゆる愛情が向こうからやってくる。


 その事に満足していたし、恵まれていると思う。


 しかしだからこそ、いわゆる恋の悩みというものを体験した事がない。


 故に片想いという状況もない。何しろ相手が気になる前によってくるのだ。


 だからこそ、好きな思いを打ち明けられずに、相手に好かれたいとか、振られたらどうしようとか。


 モヤモヤドキドキしながら、進めていく段階を踏んだ恋愛というものに憧れを抱いていた。


 映画、マンガ、ドラマではラブストーリーをテーマにしたものを好んで観ていたし、現実のコイバナも大好き。


 それを満たす為の能力を彼女は持っていたのだ。


 人から尋常じゃなく好かれる体質である彼女だが、自分以外の人間の好意度合いを読み取れる。


 更に少しでも、好意がある同士ならそれを大きく振り上げられるのだ。


 自分には恋占いが出来るとの触れ込みで、他人のコイバナを集め、時には叶えてやる。


 あいりの恋占い。超モテモテの彼女がアドバイスしてくれるというだけで、恋する乙女は彼女の元に次々集まった。


 それが彼女の趣味なのだが……

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