第9話

「確かに守がいないね。誰かなにか聞いてるかい?」

メアリーが聞いた。


共用スペースのリビングには、6人掛けのダイニングテーブルと2台をつなげて8人が利用できるローテーブルが設えてある。


テーブルには須磨子、あゆみ、ひみか、あきな、メアリー。

ローテーブルにはジェシカ、美奈穂、真奈美。と、いつの間にやら復活した修二がちゃっかり座っている。


「いや、特に聞いていないよ。メッセージも送ってるんだけど返答なし」

と、あゆみが返事を返した。


守とはB棟2-1の住人。化け狐、孤宮守の事。


彼は基本的に無職の引きこもりだった。ジェシカのように昼間、外に出られないというのではない。自分の意志で部屋からほとんど出ないのである。


その為百鬼夜荘住人同士の決まり事なども度々無視して好き勝手振舞うことも多い。


「全く、要らないなら要らないで事前に申し出ろって言ってるのに」


「いいじゃないの。気にせず食おうよ。毎度のことじゃないの。俺、腹減っちゃったんだよね」


修二が手をすり、ニヤつきながら言った。隣に美奈穂もいる。が既にお互い先ほどの兄妹喧嘩を気にしている様子もなかった。


「あいつがいつ飯食おうが好きにすりゃいいさ。でも、作ってくれる人の都合だってあるじゃなかね。その為に決まり作ったんだ。守ってもらわなきゃね」


厳しい口調で言うメアリーに、


「本当にね。皆で暮らしているんだから、思いやりが大事だよ。よし!あいつ見かけたら俺から良くいっとくからさ、まずは飯にしようよ」と賛意を示した。


金にだらしない修二だが、住人同士の決まり事などはきっちり守る。

共用部分の掃除なども進んでやるタイプだった。まあ、家賃の支払いが滞りがちであることを誤魔化す意味もあるのだろう。なんにしても早く食事にありつきたい修二はそれを促す言葉を続けて口にする。


が、そんなやりとりに、のんびりした声が割って入った。


「ええ、でもぉー。なんだかぁー可哀そうな気もしますぅー。私、声かけてきますよぉー」


真奈美だった。


「いや、約束の時間に来ない方が悪いさ。食いたきゃ残ったもん勝手に食うだろう」


メアリーはそんな必要はないと手をパタパタと動かして言うが、


「でもぉーお隣の部屋のよしみですしぃー。まだ、私、きつねさんとあまりお話もしてないですからぁー。きっかけにもなりますしぃー。行ってきますよぉー」


静止の言葉も聞かずに立ち上がり歩き出す。


「あ、おい。なんだい随分律儀な子だね」


「大丈夫かな。守と正反対な感じじゃん」


クレイトソン親子がきにかけるような言葉を交わし、


「そもそも狐と狸じゃないか。大丈夫かね?変なことされないか心配だよ」


「あら、お兄様が他人をそんな風に心配するなんて珍しいですわね。何か魂胆があるんじゃありません?」


「人聞きの悪いこといいなさんな。わが妹ながら兄のことが全くわかってないね。オレは慈愛の人なのよ。まだ、ここに来たてで慣れてなかったり、寂しかったりする真奈美ちゃんに優しく寄り添いたいと思ってたのよ。せっかく一緒の席を共にして仲良くなるチャンスだったのにな。守の奴め間が悪いんだから」



「信じられませんわね。どうせ取り入ってお金でもせびるつもりなんじゃないんですの?」


「ギクッ……。さて、なんのことやら。俺は彼女を善導してあげるだけよ。その変わりちょっぴりお礼をね」


「やっぱり、下心満々じゃないですの。私、彼女とはお友達になりましたの。いい?お兄様。私が目の届く範囲で恥ずかしい事したら」そこで彼女は言葉を区切って凄みのある声で言う。


「わかりますわよね?」


握りこぶしに親指を立てて下に向けるとそれで首を左から右へ動かす。


「ひゃ、ひゃい」


先ほどの惨状を思い出したのか、素行の悪い兄は眼光鋭く睨む妹に情けなく返事をした。


兄妹間で自分の事が話題になっていることも知らず真奈美は目的地。狐宮守の部屋前までやってきていた。

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