第7話

 ジェシカは純血種の吸血鬼である。

 

 見た目からは想像も付かない程の腕力を持ち、高い運動能力を秘めている。

 

 更にはコウモリや霧など不定形な変身して飛ぶ事もできるし、何よりどんな傷でも治癒する事が出来る。不死身なのだ。

 

 但し弱点さえ付かれなければだが。

 

 既に触れた通り沢山の能力がある。が、反面弱点も多い。

 

 日光、十字架、ニンニク。銀で出来た武器。杭を心臓に打ち込まれる事。

 

 初めて訪れた家には住人に招かれないと入れないし鏡にも映らない。

 

 流水では身動きがとれないなんてのもある。

 

 そして、吸血鬼の最大の特徴にしてある意味弱点は、人の血を吸わなければならない事だ。

 

 血を吸った相手は吸血鬼になる。その相手を眷属として自在に操る事の可能だ。

 

 しかし、血が必要な時に人間がいなかったとしたら? はたまた弱点で防御され続けて近づけなかったら?

 

 或いは、その場にいる人間全ての血を吸い尽くしてしまったら確実に積む。

 

 そこで彼女は吸血鬼が人間の血を吸わなくても良い方法を研究し、それを物にしたのである。

 

 血液と同じ成分を野菜や果物など他のものから抽出するらしい。

 

 とは言え本能的に赤い液体を欲してしまう事もあり、それをワインやトマトジュースなどで補うようにしていたが、ここ数年はアセロラドリンクがお気に入りなのである。

 

 長い間の研究では、吸血鬼以外の妖怪の状態を観察、実験なども行っていたらしい。

 

 それに、加えて200年以上分の知識も持ち合わせている。

 

 彼女が妖怪専門の医者として頼られているのもそれが理由だった。

 

「今日は随分、早起きじゃないか」

 

 メアリーの父親は普通の人間だった。ひみかと同じ妖怪との混血である。

 

 その為、吸血鬼の能力も半減。その代わり弱点の影響も弱かった。

 

 血も吸う必要がなく、食べ物で補えた。

 

 普段は大事をとって日焼け止めを塗ったり日傘をさしたりしているが、実際、直射日光にも耐えられる。

 

 しかし、母のジェシカは太陽の影響を克服する事が出来なかったようで、夜に活動して朝眠る事がほとんどだ。

 

 普段なら、今頃グースカ寝こけていてもおかしくない。

 

「美奈穗に頼まれてたからね。朝起きたら、へアセットの準備、手伝ってって」

 

「わざわざ、すみませんでしたわ。ジェシカお姉さま」

 

「いいの。いいの。若い娘が着飾るお手伝いなんて、ここじゃないもの」

 

 メアリー、あきほは既に成人女性の姿。ひみかは年若いながら、自分の髪型や服装などにこだわりがあるタイプだ。

 

「若い娘と、ファッションとかヘアスタイルとかメイクについて話すって女子トークっぽいじゃん? 一度やりたかったんだよね」

 

「女子トークって、母さん。あんたここじゃ一番の歳上だろ」

 

「気持ちの話をいってんのー。お互い長く生きてんだしー。普通にしてたらどんどん老け込んじゃうじゃん」

 

「アタシとしちゃ、もっと落ち着いて欲しいもんだがね」

 

「アンタは落ち着きすぎだってば。いいもん、私はこれからも美奈穗とワチャワチャ楽しくやるの。ねー!」

 

「はい、お願いしますわ。ジェシカお姉」

 

 傍からみれば若い女の子同士という微笑ましい光景に見えるかもしれないが、片方は200歳以上生きている女吸血鬼で実の母。

 

 それが中学生と同レベルで接していると思うと

 

「頭が痛いね、こりゃ」誰いうともなく口にした。

 

 そこへ

 

「わたしもぉー、仲間にぃー入れてくだぁーさぁーい」

 

 ノンビリとして間延びした声が聴こえる。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る