第10話 案外冷静に対応できた

「ごめんね、たて。もう2回目も、もらっちゃったところだよ。トドメ、刺しちゃった♡」



おぉ......まじか......俺、かすかと繋がっちゃってるよ......。

めっちゃびっくりしたわ。


寝てたらなんか気持ちいいなって思ったら、友だちと繋がってた、なんてそりゃびっくりするわ。


......けどまぁ、昨日、温泉で吟嶺ぎんねから話を聞いてから、いつかこんなことになるような気はしてた。

こんなに早い、とは思ってなかったけど。


おかげで、一瞬パニックになりそうだったけど、案外冷静でいられる。



「......幽、何してんの?」


「交尾だよ♡」


「だよねー」


「気持ちいい?」


「うーん、まぁまぁかな? っていうか、ごめん、さすがに2回目終わったばっかり? ってことらしいし、ちょっと痛い、かな?」


「えっ、あっ、そっか............。ごめんなさい......」


俺の言葉を聞いて、さっきまでしていたウキウキとした嬉しそうな表情を崩して、一転、しょんぼり顔を見せる。


なんていうか、今までしたことのないシュールなやり取りだ。

繋がったままの状態、っていうか、幽がグリグリと腰を動かして、出したばかりの息子を刺激してきていた。


俺自身、一晩で何回もできるタイプだけど、さすがに休憩なしの連続3回ってなるとそれなりにしんどい、というか刺激が過剰だ。


目の前に映る光景がかなり扇情的だからなんとか完全な賢者モードに陥らず、半分元気な状態を維持できてはいる。

けど、どうしても心持ち痛い感じはするよね。


頭が回ってないこともあって、幽に対して、というか女の子に対して、「まぁまぁ・・・・気持ちいいよ」なんてありえないくらい心無い言葉をかけてしまった。

正直な感想が口をついて出てしまっただけだし、幽もだいぶ悪いことをしてるってこともあるとはいえ、幽にこんなにも悲しそうな顔をさせてしまったことに罪悪感が芽生える。


「え、えっと......じゃあ............」


「あ、いやいや、抜かなくてもいいよ」


「あっ......。そ、そっか......」


俺の反応が思った以上に淡白だったことにガッカリを通り越して、反省したのか、腰を上げようとする幽。


とはいえ、さっきまでの、下半身を刺激するものすごく拙い腰つきは、逆に手慣れてない感が可愛らしさを感じさせてくれてた。

ここまで手遅れになってるらしい今となっては、わざわざ抜いてほしくはない。


だから幽が持ち上げようとする腰を掴んで引き寄せておく。


「っ......!」


「動かさなくていいから。痛いんだろ? なんなら朝まで挿れたままで慣らしてもいいよ?」


「えっと......とりあえずちょっと動かさないでおくね......?」



降ろした腰を再び動かそうとした幽が一瞬苦悶の表情を浮かべていたように見えた。

無理しなくていいから慣らそうという旨を伝えたところ、素直に動きを止める。


よく見ると俺よりも幽の方がめっちゃ痛そうだ......。

自分の腹部の方に目を向けると、肌色の結合部に赤い液体が付着してるのが見える。


たぶん、すでに汗やら何やらのいろんな液体である程度薄れているんだろうけど、破瓜の結果がありありと見て取れる。

さらにベッドの方に視線をやると、より明らかな鮮血の跡が広がっている。


漫画とかならともかく、初体験でこんな無茶なことをするやつが現実にいるなんて、正直ちょっと信じられない。


俺自身、女の子が体験する破瓜の痛みのほどを体感することはできないし、それを実際に理解することは生涯できないとは思う。

でも、これまでフレンドになった子たちの中にも何人も初めてをくれた子はいて、その子たちの反応を見るに、相当キツイんだろうってことはよくわかる。


ものすごい自己満足だけな話なんだけど、俺は女の子を痛めつけたり、自分だけの快楽を追求するような交わりは全く望んでない。


聞いた話では、世の中の男子の中には、大人なビデオで展開されるような行為をリアルな知識だと勘違いして、激しいプレイこそ女性が喜ぶんだ、とか、初体験でも簡単に絶頂を繰り返せる、とか、そういう間違った認識のまま女の子との本番に対峙するやつが一定数いるらしい。


個人的には、なんとも嘆かわしい話だと思う。


男女差別をするってわけではないけど、そういう行為に関しては女性より男側が可能な限り配慮してあげるべきだ、というのが俺の持論だ。


世の中、ほとんどの女性は行為中に演技しているという話もあるくらいだ。

まして、行為のためだけの仲になってくれる子に対して、そんな演技をさせるなんてことになるのは情けなすぎる。


最大限愉しくてハッピーな時間を過ごしてもらいたい。

そうやって、2人ともが最高の快楽を得られるってことこそ、セフレのあるべき姿じゃないだろうか。


そういう思想に立脚して、俺はこれまで、行為中にはできるだけ対話して、本番中には相手の求めることを反応から極力推察して、無理をさせないように配慮するようにしてきた。


もちろんこんなことは、さっきも言った通り、あくまで自己満足に過ぎないことはわかってる。

男の俺が、女性の心を本当の意味で理解できようはずはない。


だからあくまでこれは俺の意識の問題。




初体験のときの痛みは、普通に内臓に裂傷が入るんだから、すぐに痛みが収まるはずがない。


幽は俺が呑気に眠ってる間に2回戦まで終えたと言う。

いやまぁ俺自身、そんなにヤラれててグースカ眠っていられた神経の図太さにびっくりではある。


それはともかく、だとしたら、きっと幽はかなりの痛みに堪えながら、ほぼ反応のない俺に奉仕してくれてたんじゃないか?


しかも、幽の下腹部には、黒い文字で「楯専用」なんて彫り込まれてるのも見えた。

..................タトゥーだろうか......。


それもこれも、前に言ってた、「幽が俺のことを絶対に裏切らないって信じられたら付き合う」っていう条件を満たすため......なんだろうな。



やり方はともかく、五行ごぎょうや吟嶺をも、俺の条件を破棄しない程度に抱き込んで説得してきた。

吟嶺からの情報によれば、幽はこれまでずっと俺だけを特別扱いしてくれてて、半ば犯罪的な執着心まで見せてくれてたらしい。


今日わかったことだって、もしタトゥーだとしたら、二度と他の男に身体を見せられないような文字を刻んだ。

多分勝手に合鍵を作ってまで部屋に不法侵入して、強い痛みに堪えてまで交わった。


そんでもって、その交わりも、俺の反応が芳しくないとわかるやいなや、一応やめようとするくらいの良識(?)は持ってる反応を見せた。

ほんの最低限だとしても、俺の意思を尊重しようとしてくれてるってことかも。


あぁ〜........................やっぱ、もう、いいよなぁ。

幽の覚悟は十分伝わってきた、と思う。

これ以上応えないのは、いまさらとは言え、さすがにあまりにも男が廃るでしょ。


なんて、いろいろと頭の中で考えていると、俺がしばらく無言なのが不安だったのか、幽がおそるおそるという具合に口を開く。



「あ、あの......。それで......その......。いま、あたしのお腹の中、楯の赤ちゃんの素でいっぱいなんだけど」


「そうみたいだね」


「楯が大好きな生だよ? 嬉しい?」


「あー、うーん、そう、だね。嬉しい、かな」


「っ! そ、そっか! 嬉しいんだ! も、もぅ、『まぁまぁ』なんていうからショック受けちゃったよ。楯ってば素直じゃないんだから♪ この、生狂いのド・へ・ん・た・い・さん♪」


寝てる間に無理矢理ってことだったからなんとも言いづらいところではあるし、幽とこういう関係になることは避けてきたってのはあるんだけど、それでもまぁ、嬉しくないわけはない。

そんな素直な気持ちを伝えたところ、幽の表情に喜色があふれる。


「いや、うん、まぁ、ね? 腰使いも中の締め方も、なんていうか初々しいなぁって思った感じ?」


「..............................ねぇ、さっきからなんでそんなに冷静なの......? あたしたち、子作りしてるんだよ、今?」


「んー、なんていうか、いつかこうなるかもなぁとは思ってたから......」






「ふーん、やっぱり四谷よつたにくん、何か余計なことをしゃべっちゃったんだね。あーあ、これで明稀端あけはちゃんは妊娠しちゃうかもね。もちろんあたしも。そうなったら、結婚してくれる? そしたら、楯が望むように、4人で居られるよ?」

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