第9話 説得の理由2

「あーちゃんは気に入らないことがあったら、僕に睡眠薬飲ませて、寝てる間に生で本番するんだよ......。さすがに僕はまだ子どもとかできたら困るんだけどさ。あーちゃんは退学も余裕で覚悟してるみたいでね......避妊してほしいんだけどさ。ヤッた後、あーちゃんが満足する何かしらの結果を残せないと、アフターピル飲んでくれないんだ......」


「えぇ............」



まじかよ、五行ごぎょうが退学とかしたら結局4人でいられなくなるやつじゃん。

まぁそのときはそのときだし、万が一があったら吟嶺ぎんねなら責任とって結婚するだろうし、むしろ都合いいか?



「それでさ、たてはもうわかってると思うけど、今回はあーちゃんが幽ちゃんからお願いされて、楯とかすかちゃんをくっつけるお手伝いをしてってことなんだよね」


「あー、やっぱり?」


「そういうこと。それで昨日あーちゃんにヤラれてさ......。実はあーちゃん、最後の生理が2週間くらい前なんだよね......」


「ま、まじか」



最後の生理がだいたい2週間前......。

ってことはつまり、人にもよるけど、今はまさに危険日真っ只中の可能性がまぁまぁあるってことで......。



「正直、今こうして楯と一緒にゆっくりしてる間も、わりと焦っててさ......。早くピル飲んでもらわないと、まじでヤバイかもなんだよね......」


「あー、それで『明後日までに』ってわけか......」



一般にアフターピルがある程度の確率で機能するのは、行為から大体3日以内だけと言われてる。


俺の場合は、セフレたちと心置きなく生でヤるために、彼女たちには普段から低用量ピルを服用してもらうようにしてた。

だからアフターピルは滅多に使ってこなかったけど、さすがにその効果くらいは知識として持ってる。


有効なのは行為後72時間と言われてるけど、それはあくまで上限。

早く服用できればできるほど効果は期待できるし、時間が経つほどに失敗の可能性は高まる。


吟嶺の気持ちを察するに、今すぐにでも飲ませたいと思っていることだろう。


俺も昔、騙されて、というか女の子が黙ってピル飲んでないってわかったときは気が気じゃなかった。

次に生理が来たってわかったときには死ぬほど安心した記憶がある。


吟嶺と五行がヤッたのが昨日ってことだから、基本的なタイムリミットが『明後日』、というわけ。



「俺が幽と付き合わなかったら、吟嶺はめでたくパパになる可能性が高いってわけか......」


「まぁ......有り体に言えば、そういうこと。ホントはこうやって僕の境遇を話したりすることもあーちゃんには禁止されてるんだけどさ。でも、僕の都合で楯が誰かと付き合うようけしかけるってのも、したくなかった」



なるほどね。


「でも、これを話したのが五行にバレたら、どうなったとしてもクスリを飲んではもらえない。だからわざわざ俺に誘わせて、仕方なくココに来たってていにしたんだね?」


「そゆこと。悪いね、迷惑かけて」



吟嶺は肯定の言葉と一緒に、若干の申し訳無さそうに微笑んでくる。


けど、そうか。

幽のやつ......考えたなぁ。


ここで俺が幽と付き合うのを断ったら、五行が妊娠して『いつもの関係』が壊れる可能性がある。

けど俺がつまらない意地を捨てて幽と付き合うだけでそれを守れる、と。


吟嶺にとっては、俺が幽と一時的に付き合うだけ付き合ってクスリを飲んで貰えれば、俺らがすぐに別れたとしてもOKだけど、もし別れたりしたら、それはそれで俺と幽の関係にヒビが入って結果的に『俺たちの関係は崩れる』っていう望まない結果になる。


だから実質、選択肢としては『付き合いを続ける』っていうのしかないわけか。



けどなぁ。

いつか振られるかも、捨てられるかもしれないって思いながら付き合うのもなぁ。


我ながら、最悪に優柔不断だってのはわかってるんだけどなぁ。




「ん〜、どうしたもんかねぇ」


「......僕が何を言っても意味ないとは思うんだけどさ。たぶん、幽ちゃんは絶対に楯を裏切ったりはしないと思うよ。なんていうか、幽ちゃんの楯への想いは......わりと病的なレベルだよ」


「え? 何かそういう根拠あるの?」


「いやぁ、楯が見てないところだと結構凄いよ? 盗聴盗撮は当たり前、楯以外の男からのアプローチへの嫌悪感丸出し対応とか、お前んちで飲み会するときとか楯のパンツとか持って帰ったりしてるし、楯が先に寝落ちしたら、ずーーーーーーっと寝顔見てたりするし。だから今まで、まさか付き合ってないだなんて思ってなかったんだよね......」



おー、まじか......。

そいつはわりと病的だな......。気づかなかった......。



「まぁ、ここまでされちゃったら、もう一回くらい信じてみてもいいかもなぁ......」


「ほ、ほんとか!?」


俺の、意外と簡単に絆されちゃった〜って言葉に、食い気味に反応する吟嶺。


まぁそりゃそうか。

俺が色好い返事さえすれば、吟嶺はちょっとばかし安心できるわけだもんな。


けど、それだけで今すぐOKするってのはなんか違う。



「けど、すげぇ悪いんだけど、もう一晩くらいは考えさせてもらえないか? ちょっととは言え、今は酒も入ってる。変に勢いで決めるってのはちょっとな」


「ん、そりゃそうだよな......。もちろんだ」



吟嶺の心労を1日延ばしちゃって申し訳ないけど、そこのラインが限界だよな。

いや、酔いが完全に冷めて、今の勢いもなくなったら、NOの返事を返すかもしれないんだけどさ。



「ま、僕から言えることはそれだけ。んじゃ、とりあえず別の湯に浸かりに行こーぜ!」


「あ、あぁ、そうだね」




それから俺たちは小さな樽みたいな形状の1人用の湯船に並んで入ったり、白濁したにごり湯に入ったり、温泉を満喫した。


俺たちの関係の話は出なかった。というか、お互いに出さないように意識してた感じだったと思う。

特に意味ある会話をしたわけじゃないけど楽しい時間を過ごして帰宅した。


なんだか心地良い疲労が溜まった感じで、帰宅して床についた瞬間、俺は眠りに落ちた。



*****



「ん〜」



なんか、心地良いなぁ。


なんだこれ、久々の感覚だな〜。

なんだっけ。下半身が絶妙に暖かくて、ゾクゾクする感じ。


あー、わかった。これ夢だわ。

夢の中で小便したくなったときの感覚って感じかな。


まずいなぁ。止めないとこれ、リアルでも出しちまうやつじゃね?


止めろ止めろ..............................あ〜無理だわこれ。




............あ〜、無理だった。きもちぃ〜。

この年でおもらしとかダッサ。まぁいいや、起きたときなんとかしよ。






「んむっ!?!?!?」


なんか息苦しい!?



「あ、起きた? ふふ、ちょうどよかった」


なんだ? ............幽?


なんで俺に乗ってる・・・・!?

なんで服着てない!?

なんで唇合わせられてる!?

なんで挿入はいってる!?


夢か!?

いやいや、この感覚は現実過ぎる。







「ごめんね、楯。もう2回目も、もらっちゃったところだよ。トドメ、刺しちゃった♡」

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