第3章〜123分間の奇跡〜⑤
しかし、彼のリアクションをよそに、恋愛アドバイザーは、語り続ける。
「そもそも、『恋愛工学』って、《相手を一人に絞らずに不特定多数の女性にモテよう》という点に特化して理論化されている側面があるんだけど……今回、黒田クンの目標は、特定の相手に絞られてるでしょ? だから、わたしが、提供しようとしているモノと『恋愛工学』は、真逆と言ってイイかも……」
「ほぅ……そうなのか……」
という男子のつぶやきに、今度は反応を示した四葉は、
「うん!黒田クンが、わたしのフォロワーを敵に回して、『オレは、不特定多数の女子にモテたい!!』と、方針を転換するなら別だけどね……」
彼女は、「まさか、そんな不埒なコトは言い出さないでしょうね!?」と、無言の圧力を感じさせる笑みをたたえながら、竜司に問い掛ける。
暗黒微笑と言っても良い、白草四葉の表情に、気圧されたのか、
「お、おう……アドバイスは、現状の方針で頼む」
竜司が答えると、恋愛アドバイザーは、
「そう……? 賢明な判断ね」
と、満足したような表情で、彼の回答を受け入れた。
苦笑する壮馬と落ち着かない様子の竜司を表情をうかがいながら、
「他に質問は……?」
四葉は、再び二人に問い掛ける。
すると、「もう一つイイかな?」と、今回もまた、壮馬が軽く手をあげた。
小さくうなずいたアドバイザーは、「どうぞ」と、柔らかな表情に戻って、質問者に発言をうながす。
背中を押された壮馬は、「実は、こっちの方が、気に掛かっているんだ……」と、切り出した。
「今回の企画は、竜司の奮闘ぶりに掛かっていると思うんだけど……ボクらより、遥かにフォロワーも多くて、注目度が高い《クローバー・フィールド》の四葉チャンの新企画の対象が、竜司でイイの? 長い付き合いの友人を悪く言うつもりはないけど、黒田竜司に四葉チャンのフォロワーを満足させられるほどの魅力があるのかな、と思って……白草さんなら、もっと、女子にニーズのありそうな、『スパダリ男子』が知り合いに居そうだって思うんだけど、その辺りはどうなの?」
友人の言葉にうなずきながら、竜司も、疑問を呈する。
「先に言われちまった上に、自分で言うのもナンだが、ホントにオレで良いのか?」
二人から出された疑義に、白草四葉は自分を落ち着かせるように、「フゥ〜」と息を整え、笑みを浮かべながら、語りだす。
「たしかに、モデル事務所に所属しているような男の子に声を掛ける方法もあったし、その方が、今のフォロワーさんたちにはウケが良いかも知れないけど……それじゃ、わたしが開拓しようとしている同年代の男の子には、ササらないと思うんだよね〜。二人は、映画を観るのが好きみたいけど、モデル系男子が《壁ドン》するような量産型キラキラ映画を観に行きたいと思うタイプ?」
彼女の質問に、男子二名は、アメリカ映画の俳優のように、大げさに両手を広げて、首を横に振りながら、声を揃えた。
「「まったく思わないね!!」」
その回答に「我が意を得たり!」と、苦笑しながら四葉は説明を続け、
「そうだよね……ああいうタイプの映画は、主に女の子がメイン・ターゲットだと思うから! わたしは、自分のフォロワーの幅を広げるために、今回の企画では、同世代の男子にも注目してもらいたい、って考えてるの。同じ年代の男の子にも興味を持ってもらうためには、キラキラ映画で主役を張るような、『王子様的スパダリ男子』じゃなくて、
最後は、思わせぶりに、クスクスと笑った。
彼女の解説に、「そういうことか……」と、竜司は自嘲気味に笑みを浮かべたあと、
「ハイハイ、どうせ、オレは《壁ドン》が似合うようなイケメンじゃないですよ!?」
と、わざとらしく唇をとがらす。
四葉は、そんな彼の様子を楽しげに見つめながら、
「拗ねない、拗ねない」
と、声を掛け、「それに……」と、言葉を続ける。
「さっき、黄瀬クンから質問のあった『恋愛工学』では、『グッピー理論』っていう《ブサメンもしくはフツメンが、イケメンに勝つ》っていう男子の興味を引きそうな説が強調されているんだけど……わたしの提供するモノでも、《普通の男の子が、頑張って告白に成功する》ってカタチを取りたいんだ。これなら、今のわたしのフォロワーの女の子たちにも受け入れやすい内容だと思うし、男の子にも興味を持ってもらえるんじゃないか、って考えてるの」
まるで、回答を用意していたかのように、スラスラと自説の補強を行った恋愛アドバイザーに対して、聞き手である二名の男子は、素直に、「フムフム」とうなずいた。
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