第3章〜123分間の奇跡〜⑥
「わたしが、伝えたいことは……そうだな〜、『恋愛工学』なんて堅苦しくて難しそうなタイトルじゃなくて、もっと、同世代にとって身近な『恋愛予備校』とか『恋愛塾』って、感じかな? 志望校の入学試験対策と同じように、《恋愛》という分野だって、親しくなりたい異性に対する『傾向と対策』が必要でしょ?」
続けて分かりやすい事例を出して自説を強調する白草四葉。
「これから、わたしのことは、マドンナ講師と呼んでくれてもイイから! 二人がお好みなら、メガネも用意させてもらうしね! 黒田クンは、赤と黒、どっちのフレームが好き?」
そう言って、妖しく微笑む自称・恋愛アドバイザーに対し、
「あいにく、オレは、メガネフェチじゃね〜よ」
竜司は、醒めた口調で返答する。
一方、朗々と自説を展開した白草四葉に感服したのか、壮馬は、「は〜。そこまで考えてくれていたんだね〜」と声をもらし、
「そういうことなら、がんばってよ、竜司! リアリティ・ショー的な企画への参加は、リスクも多いけど、ボクが出演するワケじゃないし、楽しみながら見せてもらうからね」
と、相棒に発破をかける。
「おまえは、いつも一言、多いんだよ! あと、今の流れだとネタとしか思えん白草のメガネ属性のネタを肯定したことになるぞ!?」
竜司はあきれ顔でツッコミを入れながらも、白草四葉の説明には、おおむね納得したようだ。
壮馬がふと壁掛時計に目を向けると、時計の針は、午後三時三分のあたりを指している。
白草四葉は、春休みが始まって以来、失恋モードから抜け出せず、『恋愛クールタイム』に陥っていた黒田竜司を、わずかな時間の間で、再び告白に挑むモチベーションに燃える『恋愛モード』に変えてしまった。
竜司と壮馬にとっては、《編集スタジオ》に迎える初めての来客だったものの、会話が盛り上がったためか、気が付くと、三人がこのマンションの一室に入ってから、二時間以上ーーーーーー、一ニ三分が経過していた。
「おっ!? もうこんな時間か!?」
自身のスマホを確認した竜司が声を上げると、壮馬も、
「そろそろ三時のおやつタイムだね〜」
と、小学生のように顔をほころばせる。彼のテンションが上がっているのにも、理由があった。
「《例のヤツ》、行っとく!?」
壮馬が確認すると、竜司も、「あぁ、そうだな! 白草も来てくれたし!」と、快活に応じる。
二人の会話に、反応した四葉は「《例のヤツ》って?」と、疑問を口にする。
その問いには、壮馬が答えた。
「ベーカリー・ショップで買ってきたアップル・パイをあたためた上に、アイスクリーム・ショップで買ったアイスをのせるんだ!」
その返答に、四葉も笑顔が弾ける。
「ナニ、その響き! 超・素敵なんですけど!!」
表情をほころばせて反応する女子に、
「まさに、禁断の組み合わせだぜ!? もちろん、カロリーを気にしなければ、な……」
と、黒田竜司は、不敵に笑う。
その一言に、表情を一変させ、四葉はムッとした口調で、壮馬に問い掛ける。
「こういうことを言う男子をどう思う黄瀬クン? 黒田クンには、恋愛指南の前に、女子に対する気遣いから、ミッチリとレクチャーすべきかな、と思うだけど……」
「たしかに、その通りだね」
と、苦笑する男子から同意を得られたことに満足しつつ、彼女は、
「それに、わたしは、食べても脂肪にならないタイプだから、気を遣っていただかなくても結構です!」
と、竜司に対して啖呵を切った。
そんな二人の様子を眺めながら、壮馬は
(それこそ、白草さんが、女子の前で言っちゃイケないセリフなんじゃないの?)
と、声に出すことなく、さらに苦笑の度合いを高めながら、
「ほら!竜司、早く準備してきてよ!」
そう言って、客人へのスイーツの提供をうながした。
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