第3章〜123分間の奇跡〜③
どうやら、彼自身の胸には、自分の失敗の理由が深く刻まれたようだ。
竜司が内省するようすに、自身の発したメッセージがシッカリと伝わったと認識したのか、四葉は満足したようにうなずく。
そして、
「じゃあ、三つ目……今日の指摘は、これで最後にしておくね。ここまでの話しをまとめて言えることだけど……そもそも、告白は、『二人の関係性の確認作業であって、一発逆転や急速接近を狙うモノではない』ってこと」
これまでの会話を総括するように、アドバイザーは断言した。
さらに、ここが重要なポイントだと判断したのか、壮馬も、素早く彼女の言葉をタイピングしていく。
一方の竜司は、またも、「どういうことだってばよ……!?」と、困惑気味の面構えだ。
彼の表情を確認した四葉は、
「どうやら、また、『納得いかない』って、顔ね……」
苦笑いを浮かべたあとに、「この例えで、理解してもらえるかわからないケド……」と、思案顔でつぶやいてから、再び語り出した。
「たとえば、金額の高いモノを買い物する時には、契約書にサインをしたりすることが多いと思うけど……わたしは、愛の告白をこの契約書みたいなモノだと考えてるの。モノの売り買いの場合、売るヒトと買うヒトが、それぞれ、納得して契約書にサインする。売る方はモチロン、買う方も、自分が商品を購入する意思があることを納得済みなら問題ないよね? でも、売る側が、契約内容や金額の説明を十分にしないどころか、販売する素振りをまったく見せないまま、『良い商品だから、サインしてください!』なんて、いきなり契約書を出してきたりしたら、買う側はどんな気持ちになる?」
彼女の問いに、今度は、竜司が思案しながら、慎重に言葉を紡ぐ。
「それは……商品を押し付けられた、というか……『押し売りにあった』っていうのか?そんな気持ちにさせられる、と思う……」
彼の回答に、四葉が満足気に、「ウンウン」とリズム良くうなずきながら、
「だよね……? 理解してもらえたようで、良かった! そこで……わたしからは、成功率を高めるための『告白前の準備段階』と『告白するのに効果的なタイミング』について、アドバイスをさせてもらおう、と考えているんだけど……」
自身の考えを伝えると、竜司は「ありがとう……」と、感謝の言葉を述べながらも、
「けど……。一度、フラれてるのに、またしつこく告白しても、大丈夫なんだろうか……?」
と、懸念を示した。
友人の言葉に、今度は、壮馬が「うんうん」と、うなずく。
片想いが実らなかったり、恋人と別れた時など、一般的に言われる『失恋』の場面に遭遇した時、多くのヒトは、「しばらくの間、恋愛は良いかな……」と、失恋が尾を引いて、次の恋については考えたくない『恋愛クールタイム』の時期に入ることが多い。
これは、その恋愛で消費した心理的エネルギーを充填する期間でもあり、軽々しく次の異性に目を向けると、「節操がない」と周囲に見られてしまうため、内面的にも、対外的にも、必要な期間である。
しかしーーーーーー。
自称・恋愛アドバイザーは、不安気な同級生男子に対して、「心配しないで……」と柔らかな表情をつくり、
「黒田クンなら、大丈夫! 今回みたいなケースの場合、告白を断ったあとで、相手のことが気になり始めた……って、ケースも無いワケじゃないから! たとえば、『フッてから異性として見るようになった』ってこともあるし、『相手が好みの容姿に変化した』って場合や、『告白のあとでも、変わらない優しさに惹かれた』ってこともね!」
と、励ますように語り、続けて、
「あとは…………『他のヒトと付き合い始めたのを知って、気になるようになった』とかね……」
そう口にして、悪戯っぽく微笑んだ。
そしてーーーーーー、
「それとも……。一度、断られたくらいで、あきらめちゃう?」
四葉は、挑発的な笑みをたたえ、小首をかしげながら相談者を見つめた。その蠱惑的な表情に、竜司は動揺し、言葉に詰まる……。
すると、彼女の言葉を漏らすまいと、ここまで一心にクロームブックの画面とキーボードに向かっていた壮馬が、
「ここまで白草さんが話してくれたことをまとめてみたんだけど……」
と、ノートパソコンの画面を二人に向けてきた。
彼の示した十四インチのディスプレイには、恋愛指南者として、白草四葉が語った言葉が、端的にまとめられていた。
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