第3章〜123分間の奇跡〜②
「まあ、ちょっと、上品さに欠けるワードを選んだのは申し訳ないけれど……ニ◯◯例以上の実例を元にした、ある大学の心理学の研究によれば、《成功した告白の七◯パーセント近くは、告白された側が告白した側の好意に気付いていた》って、データもあるの。もちろん、告白される側が相手の恋愛感情について、敏感だったり、鈍感だったりする場合があるから、一概には言えないけど……この例からも、相手に好意を抱いていることが伝わっている方が有利だと、わたしは考えてる」
「ふ〜ん、面白そうな研究をしてるヒト達がいるんだね」
最初に感想を述べたのは、壮馬。
その言葉に反応した四葉は、
「この研究例は、ネットにも論文がアップロードされていたから、あとで、黄瀬クンにアドレスを送るね」
と、応答する。
一方、研究例を元にした解説に納得したのか、竜司は「なるほど……」と、小さくつぶやきながら、四葉にたずねる。
「でも、告白する前に、相手に好意を伝える、ってどうすればイイんだ?」
その問いに、彼女は、「良くぞ、聞いてくれた!」と、言わんばかりのキラキラした表情で、
「それが、今回の企画の重要なテーマ! 題して、『上手に好きバレさせながら相手に意識させる方法!!』具体的な手法というか、テクニックについては、動画で詳しく説明していこうかな、って考えてるところ」
と、自信満々に答える。
「へぇ〜、それは楽しみかも」
期待に満ちた表情で応じる壮馬に対し、竜司は「う〜ん」と、一言発したまま、こわばった表情を崩さない。
そんな男子二名のそれぞれの反応をよそに、恋愛アドバイザーの講義は続く。
「黒田クンの話しの中で気になったコトの二つ目は、相手の状況をキチンと把握していたのか、ってコト。黒田クンさ、そもそも、紅野サンの恋人の有無や片想いの相手がいるかどうか、リサーチはしてた?」
急に自身に向けられた問いに、竜司は戸惑いながら、
「ーーーーーーいや……それを確認する前に、告ってた」
と、自分の失態を告白するかのように答える。
竜司の返答に、なぜ、男子は、みんなこうなのか……と、あきれた表情の四葉は、「でしょうね……」と、つぶやいたあと、今度は、壮馬に話しを振る。
「ちなみに、黄瀬クンは、紅野サンのその辺りの事情について、何か知っていることはある?」
「あ〜、そこのトコロは、ボクもまったくわからないな……個人的には、紅野さんに付き合ってる男子が居るようには見えないケド……」
親友の返答に、「だ、だよな!!」と、それまで暗い顔色だった竜司が、パッと明るく表情を一変させて語りかける。
友人の根拠薄弱な前向き過ぎる問い掛けに、壮馬はキッパリと答える。
「いや、あくまでボクには、そう見える、ってだけで……当たり前だけど、ホントのトコロは、紅野さん本人か仲の良い天竹さんにでも聞いてみないとわからないよ?」
その返答に、「そ、それもそうだな……」と、再びうなだれる竜司。
彼らの会話を聞きながら、四葉は語り続ける。
「それに、問題は意中のヒトが居るかどうかだけじゃない!紅野サン自身が、『いまは勉強や部活に打ち込みたい』って、考える性格だったり、そういう時期だったら、恋人や気になるヒトの存在の有無に関係なく、告白の成功率は低くなるよね?」
その言葉に、二人は説得力を感じたのか、感心したように、「確かに……」と、うなずいた。
壮馬は、彼女の発言内容から参考になる箇所をドキュメントアプリに記録していく。
竜司と壮馬の反応を確認し、満足したようすの四葉は、
「今の例えでも、納得してもらえたかも知れないけど……。今度は、具体例を出そうかな。二人に分かりやすい例がイイよね?」
と言ったあと、こんな問題の提示を始めた。
「小学校四〜五年生の女の子と男の子がいます。女の子は、映画やドラマの影響を受けて、恋愛に興味を持ち始めた年頃……一方の男の子は、マンガやゲームに夢中で、まだそうした事に関心が薄い……そんな状況でも、女の子は男の子に、『あなたが好きです』と伝えた。当然、男の子の反応は、芳しくない……ここで、黒田クンに答えてもらいたいんだけど、この場合の女の子の失敗の原因はナニ?」
これまでになく真剣な表情で、回答者に迫る四葉。
唐突な出題に、やや戸惑ったものの、竜司は真剣な表情で考え、答える。
「男の子は、マンガやゲームに夢中で、恋愛にあまり興味がない、って言ったよな? 自分のガキの頃のことを考えても、男の子の立場に立てば、その時期に女の子に好意を伝えられても、どうして良いかわからなかったと思うんだ。告白する前に、相手が恋愛に対して、ナニを考えているのか、どう向き合っているのかは知っておく必要があるよな……まぁ、それを小学生の女の子に理解しろ、っていうのは難しい話かも知れんが……」
このように、アドバイザーの問いに真摯に回答したあと、「うわ〜」と、声を上げ、
「オレの行為は、小学生レベルだったって、ことか……」
と、つぶやき、頭を抱えた。
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