幕間①〜女々しい野郎どもの詩〜②
(この緊張感には、もう耐えられそうにない……)
そう感じたオレは、アンケートの枚数確認のダブルチェックのために、紅野から受け取った用紙を数え終え、慎重に彼女の机の上に置いたあと、思い切って切り出した。
「あ、あのさ、紅野……!」
急に声を掛けてしまったためか、先ほどのオレ自身のように、今度は、彼女が少し驚いたように、ピクリと身体を震わせた。
「な、なに……? どうしたの急に」
「あ、あぁ、スマン……今日は、どうしても、紅野に伝えたいことがあって……」
彼女を驚かせてしまったことと、これまでの緊張感から、より焦りを感じたオレは、やや早口になりながら、不思議そうにこちらに視線を送る紅野アザミに対して、一気に思いの丈を打ち明けた。
「紅野アザミさん、前から好きでした! オ、オレと付き合ってください!」
一世一代(なにしろ、自分の人生で初めての経験だった)の告白を実行したオレに対し、クラス委員の女子はーーーーーー
「えっ、え? ええ〜!?」
と、困惑気味の言葉を口にして…………。
「あの、え〜と……黒田クンには、委員の仕事でお世話になったし……イイ人だと思うけど……あの……その…………ゴメンナサイ!」
オレは、盛大にフラれた――――――。
「あ、ああ! ハハハ……そ、そうだよな! なんか、急に、こんなコト言ってしまって申し訳ない。もし、紅野が良ければ、これからも、変わらずに仲良くしてほしい! あ、そうだ、この進路アンケート……まとめて、職員室に持って行くわ! 紅野は、構わず、帰ってくれてイイから……ホント、気にしないで……」
コレ以上はないくらい、見事な玉砕、という結果に動揺したオレは、早口で、それだけまくし立てると、文字通り、ウサギが逃げ出すごとく、教室を飛び出した。
その後のことは、あまり良く覚えていない。
どこか、意識を別の場所に置いたまま職員室に入り、担任だったユリちゃん先生に、クラス全員分の進路アンケート調査用紙を手渡した際には、
「ありがとう、黒田くん! もし、来年も私のクラスになったら、クラス委員の仕事を任せようかな?」
などと、担任教師が宣ったのが聞こえたような気がするが、なんと返事をしたのか記憶が定かではない。
その後、帰り支度をするため、教室に戻った時には、すでに紅野アザミの姿はなかったが、オレの机の上には、
「部活があるので、先に帰ります 私も、変わらずに話してくれると嬉しいな コウノ」
というメモ書きが残されていた。
そのメモは、クリアファイルに挟まれ、(未練がましい話だと自分でも思うが)今もオレのカバンの中にある。
登校時に、春らしい陽射しを提供していた空は、午後になって分厚い雲に覆われ、やがて、シトシトと、静かな雨を降らせ始めた。
それは、まるで、その日のオレ自身の心の模様を表しているようだった。
その後、帰宅して、昼食もとらず自室のワンルームマンションで塞ぎ込んでいると、壮馬から、
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どうしたの?
こっちの部屋にも来ないで
なんかあった?
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と、LANEにメッセージが入った。
親友からのものと言えど、メッセージを返せるような気分ではなかったが、それでも、アイツにしては珍しく気を遣ってくれていることが感じられたので、端的に
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クラスの女子に告ってフラれた
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と、だけ返信する。
しばらくすると、隣室から、ドタドタと足音が聞こえ、その直後、我が家(と言ってもワンルームのマンションだが)のドアが開かれ、長い付き合いの友人が姿を見せた。
「何があったか、わからないケドさ……ボクで良ければ、話しを聞かせてよ」
その後のことは、コイツがアップロードした動画の通りだ。
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