第2章〜初恋のきた道〜⑥
手洗いを済ませた三人は、再び席に着く。
正方形のローテーブルを挟んでクッションのある位置には、四葉と壮馬が、四葉の右隣りには、竜司が腰を下ろした。
そして、彼らは、待ちかねたように、テーブルに丁寧に包まれたパンと、コンビニで購入したドリンクを取り出す。
四葉は、カスクートとカマンベールチーズのパンに、グテという商品名の板チョコを挟んだフランスパンとミルクティー。
壮馬は、クロワッサンサンドとキッシュに、ヴィエノワという少し甘めのウィーン風パンに生ハムを挟んだサンドとカフェオレ。
竜司は、ソーセージクロワッサンと明太子フランス、サンライズと炭酸飲料を――――――。それぞれの手元に置いた。
各自の選んだパンとペットボトルが揃ったことを確認した壮馬が、「では!!」と、声を上げて、竜司に視線を送る。
長い付き合いの相方の合図を受け取った竜司は、ドリンクを片手に宣言する。
「ささやかながら、新しいクラスの転入生にして、クローバーフィールド?の白草四葉さんの歓迎会を始めたいと思います。カンパイ!」
竜司の掛け声に合わせ、
「「カンパ〜イ!!」」
と、壮馬と四葉も声を揃える。
開会宣言を終えた竜司は、ペットボトルのキャップを開封し、炭酸飲料を一口含んだ後、
「でも、良かったのか白草? 確かに、ここのパンは絶品だが、今の壮馬になら、もう少し豪華なランチを
と、冗談めかした口調で、転入生にたずねた。
「タカるなんて、そんなこと初対面なのに、デキるわけないじゃない……でも、二人の編集スタジオを見てみたかったし、話したいこともあるからね!」
四葉は朗らかに答える。
その様子に、壮馬が気になっていることを重ねて質問する。
「そのことなんだけどさ……ボクたちに興味を持ってくれたことは嬉しいけど、男子二人が根城にしている部屋に、一人で来るのは不安じゃなかったの?」
「そのことなら、大丈夫! さっき、ベーカリーショップで撮影した後、《ミンスタ》に二人が歓迎会を開いてくれることを報告しておいたから! わたしにナニかあったら、一◯◯万人のフォロワーが、すぐに反応してくれると思うな」
アッケラカンと返される四葉の答えを耳にした壮馬は、すばやくスマホを取り出し、《ミンスタグラム》にアクセスして、『クローバー・フィールド』のアカウントを検索する。
彼女の投稿は、すぐに見つかった。
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clover_field 今日は新しい学校の転校初日!
放課後は、同じクラスになったYourTuber・竜馬ちゃんねるのホーネッツ1号サンと2号サンが、歓迎会を開いてくれることになりました!
ここのお店のパンも楽しみ。
#新学期転校初日
#竜馬ちゃんねる
#パンの名店
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書き込みを確認した壮馬は、無言で自身のスマホを竜司に手渡す。
トレイの上に美しく盛られたパンの山の画像とともに記載された短文を目にした竜司は「すげぇ……いつのまに……」と、つぶやく。
「さすが、カリスマ・ミンスタグラマーだね! 福◯工務店なみに、仕事が早い!」
そう感想をもらした壮馬に、
「地方ローカルのネタは、地元民以外には通じないぞ! しかもそれ、大昔のCMじゃね〜のか!?」
と、キッチリとツッコミを入れる竜司。
「いや、企業のCM自体は、今も放送してるんじゃないの? 知らんけど……」
その様子を眺めていた四葉は、またも開始された即興の掛け合いに、表情では笑みをたたえながら、こめかみの部分にかすかな憤りをにじませつつ、
「あの……そろそろ本題に入ってイイ?」
と、二人にたずねる。
「おお、済まない! そう言えば、さっき、『話したいことがある』って言ってたな? 何か、相談事か? 今日は、白草の歓迎会だし、オレたちにできることなら、何でもさせてもらうぞ?」
竜司の気前の良い発言に、機嫌を直した四葉は、今度は心からの笑みを浮かべ、
「ホントに!? 嬉しい!!」
クッションに座っていながらも、小躍りしそうなようすで、喜びを表現した。
その様子に、壮馬は、
「チョット待って、竜司! 内容を聞く前から安請け合いは良くないよ? ちゃんと、白草さんの要望を聞いてから答えた方がイイんじゃない?」
と、釘を刺す。
「ん? それも、そうだな……白草、要望があるなら、聞かせてくれないか?」
竜司の一言に、四葉は居住まいを正し、「それじゃ……」と、つぶやいてコホン……と、可愛らしい咳払いをしたあと、慎重に、しかし、ハッキリとした口調で切り出した。
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