第2章〜初恋のきた道〜⑦
「わたしが考えていたのは、二人の《竜馬ちゃんねる》と、わたしの《クローバー・フィールド》のアカウントで、コラボができないか、ってことなんだ」
彼女の一言に、男子二名は、声にならない声をあげる様子で、反応を示す。
二人の顔色に好感触を得たのか、四葉は続けて、「その内容、なんだけど……」と、今度は、ややもったいぶった様子で、竜司と壮馬の表情をうかがいながら、
「今まで、わたしのフォロワーは圧倒的に女の子が多かったから、これからは、男子にも、わたしの《ミンスタ》や《チックタック》を見に来てもらいたい、と思ってるんだ……」
と、慎重に語る。
そして、彼女はこんな提案をしてきた。
「そこで、《クローバー・フィールド》のヨツバとしては、男女ともに興味をもってくれそうな、恋愛アドバイザーに挑戦してみたいんだけど、黒田クン、わたしのモルモ……じゃなくて、わたしのアドバイスを受けてみる気はない?」
「いいじゃん、面白そう!!」
「いや、ちょっと待て!!!」
壮馬と竜司は、ほぼ同時に声をあげ、互いの顔を見合わせた。
「え!? 面白そうじゃん、やろうよ竜司!」
「いやいや! なんでオレが!? しかも、白草! いま、『わたしのモルモットになってみない?』って言おうとしただろ!?」
「さぁ、なんのことかな〜? 何か聞こえた、黄瀬クン?」
「いや、白草さんは、竜司を実験体にしようなんて、一ミリも考えていないと思うよ」
憤慨する竜司をよそに、四葉と壮馬は、ニヤリとした表情を崩さずに、シレっと返答する。
「お・ま・え・ら、な〜」
と、さらに怒りを込める竜司に、
「ボクらも、そろそろ新しい視聴者層を開拓するべきだと思うんだけどな〜。それに、『クローバー・フィールド』のヨツバちゃんが協力してくれるなんて、二度とないチャンスかもしれないよ?」
壮馬が説得に掛かると、提案者の四葉は、
「せやせや! 黒田クンは、みすみす絶好のチャンスを逃すタイプなん?」
わざとらしい地方言語を交えて、挑発気味に問い掛ける。
さらに、彼女は、少し真剣な表情で、声のトーンを一段落とし、
「それに、
と、失恋の傷が未だに癒えないクラス委員に問いただすように言葉を発した。
彼女の言い回しに、ただならぬ雰囲気を感じながら、竜司は、なんとか言葉を絞り出す。
「悔しくないか、って言われりゃ、そりゃ……」
そして、その後の発言に淀んでいる、右斜め四十五度の位置に座る男子に、這い寄るようにして顔を寄せた四葉は、
「悔しいよね……? 哀しいよね……?」
と、問い詰めた。
その迫力に気圧され、
「あ、あぁ……」
「だったら……」
と、一言をつぶやき、一拍置いたあと、
「復讐するしかないよね……!
そうキッパリと言い切った。
断定口調で語る彼女の一言で、パーティ・グッズの電気ショック系玩具に触れたお笑い芸人のように、ビクリと身体を大きく震わせた竜司は、
「ナ、ナ、ナ、ナンのことだよ!?紅野に復讐って……?」
動揺し、しどろもどろになりながら、答える。
そんな同級生男子の情けない姿を、やや上方から見下ろす形で、黒田竜司の鼻先に人差し指を突き出し、白草四葉は、断言した。
「今さら隠そうとしても無駄! 黒田クンがフラレた相手は、紅野アザミなんでしょ?」
話しが進まないから、さっさと白状しろ、とでも言いたげな彼女の物言いに、
「あ……うん……」
ミステリー小説の探偵役に、真相を突きつけられた犯人のように自供(?)した竜司は、情けなくうなだれる。
一方、対面初日であるはずの二人が展開する修羅場的な雰囲気に、一人取り残された『第三の男』である黄瀬壮馬は、目の前の同級生二名が醸し出す、肌がヒリつくような空気を呆然と眺めるしかなかった。
(ナ、ナニコレ? 竜司と白草さんは、今日が初対面のハズだよね? なんで、二人の会話は、彼氏の浮気を問い詰めてる彼女みたいな感じになってんの?)
さらに――――――。
(しかも、白草さん、いま、紅野さんのことを呼び捨てにしていたよね? いったい、どういうこと?)
と、あらたにわき起こる疑問に、市内の偏差値トップ校で成績上位を誇る(それなりに)優秀な彼の脳内器官も、情報処理が追いつかない模様である。
それでも、なんとか状況を整理した壮馬は、劇中のクライマックスで、犯人を追い詰める名探偵に対し、解説を求める凡人役のように、疑問を投げかける。
「あ、あのさ、白草さん。竜司のフラれた相手が、紅野さんだって、どうしてわかったの?」
そんな疑問に、天才的推理力を持つ者だけが、発する
(なぜ、そんな簡単なことを、いちいち答えなきゃいけないの?)
という一般人を憐れむようなオーラを漂わせながら、白草四葉は答えた。
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