第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜⑤

 まず目についたのは、子鹿を思わせる華奢な身体つきと、カモシカのようにスラリと伸びた脚。

 身長は、一六◯センチほどと、さほど高くは無さそうだが、首から上のパーツがあまりに小さいため、八頭身の黄金比を形成している。

 (竜司にとって、八頭身の人間をリアルで目撃するのは、初めてだった)

 肩のあたりに柔らかく落ちた黒髪は、極限までサラサラ&ツヤツヤを追求し、丁寧に手入れされているであろうことがわかるが、しかし、キマリすぎてはおらず、ややラフな雰囲気を残している。

 彼女が歩みを進めるだけで、教室の前方扉から黒板の前の教卓まで歩く姿は、見慣れたハズの教室の風景が、まるで、そこがファッション・ショーのランウェイになったかのように、華やかな印象を与える。

 脚部と同じように細く伸びた腕に目を向けると、視線は、自然とキレイに整った指先に誘導され、あたかも、完成された彫刻のように感じられた。

 そして、再び目線を上部に向けると――――――。

 ナチュラルに整えられら眉に、西洋では美しさの象徴とされるアーモンド型の瞳、やや高めの鼻筋に、緊張のためか、少し上気しかかった朱色の頬、さらに、桜色のつややかな唇と、まさに、この世の《美》を体現したかのようなパーツの数々が、奇跡的な邂逅を遂げていた。


 「可憐だ…………」


 どこからか、三代目の世紀の怪盗とともに、大公息女を救い出した斬鉄剣の使い手(十三代目)と同じような男子生徒のつぶやきが聞こえる。


 しかし――――――。


 誰かが一言つぶやいた以外、ただただ見惚れるだけの男子一同ではなく、大きな反応を示したのは、意外にも、女子の方だった。


「え!?」

「ちょ!?」

「マ!!!?」


「「「ガチで、『クローバー・フィールド』のヨツバちゃんじゃん!!!!」」」


 女子数名がハモった一言で、教室内の空気は、再び一変する。


「スゲェ〜〜! 本物の有名人だ!?」

「これ、ドッキリ!? テレビ局の企画かナニか?」

「写真撮ろう!? 撮ってもいいかな? でも、SNSには、アゲちゃダメなやつ?」


 などと、新学期であることを考慮しても、過剰な狂躁に包まれた室内の様子に、担任の女性教師・谷崎ゆりは、浅いため息をつき、その隣に立つ白草四葉は、やや困惑したように微苦笑を浮かべていた。


「はえ〜〜。ホントに白草四葉本人だよ!」


 つぶやく壮馬に、


「掲示板に、その名前が書いてあったんだから、そりゃそうだろう……」


 竜司が冷静なツッコミを入れると、


「そうじゃなくて、『クローバー・フィールド』の白草四葉だって言ってんの!? 文脈ぐらい読もうよ……」


 少し苛立たしげに返答する壮馬に、


「さっきから、そのクローバー・について聞いてるのに、まともな説明が無いからじゃねぇか!?なんだ、未知の怪獣が襲ってくる映画かナニかなのか!?」


「ツッコミに困る返しは止めてくれない? ゆりちゃん先生の隣に立っているのが、異形のーーHAKAISHAーーに見えるになら、眼科ではなく、精神科に通院することをオススメするね」


 壮馬が、SNSなどの世事に疎い竜司に呆れつつ言葉を返すと、教卓の方からは、パン、パンと両手を打つ音が鳴った。その拍手の音の主である担任教師は、最前列の席と隣に立つ生徒のみに聞こえる声で、「こうなると思ってたわ……」と、小声でつぶやいたあと、


「はい、おしゃべりはそこまで……それでは、白草さん本人から自己紹介をしてもらいます」


と、自身の職務を果たすべく、ショート・ホーム・ルームの進行を始めた。

 担任教師の言葉を受け、うながされた女子生徒は、スッと小さく息を吸ったあと、


「今度、こちらに引っ越してきた白草四葉です。十年ぶりに、この街に帰って来ました。この学校のことは、わからないことだらけなので、色々と優しく教えてもらえると嬉しいです」


と、良く通る声で語りだした。

 さらに、続けて、


「あと、もしかしたら、私のことを知ってくれているヒトがいるかも知れないけれど……大人の事情で、色んなヒトに迷惑が掛かるから、SNSに私の写真を上げるのは止めてね」


 そう言って、両手の人差し指で、可愛く小さなバツ印を作る。

 その一言に、クラスのあちこちから、「り!」と声が上がった。

そして、教室内の反応に満足したのか、彼女はうなずいて、最後に、こう付け加えた。


「この学校……ううん、このクラスにも、《ミンスタグラム》や《YourTube》の投稿をしているヒトがいるみたいなので、仲良くしてくれると嬉しいな」


 これ以上ない極上のスマイルで自己紹介を締めくくった四葉を歓迎すべく教室内は、万雷の拍手に包まれる。

 白草四葉の転校初日の一大イベントは、文句の付けようのない出来栄えと言えた。

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