第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜④

 竜司たちが、2年A組の教室に入ると、すでに半数近くのクラスメートが席に着いていた。

 四十人学級のため、やや縦長の作りの室内には、八席ずつ五列に机が並び、窓際の前方から、生徒名の五十音順に、座席が割り振られている。

 窓際から一列目と二列目の最前列の席が割り当てられた葵とアザミの二人と別れ、今年度も、五十音順で前後の席となった竜司と壮馬は、窓際の最後尾と、その前の座席に腰を落ち着ける。


「今年も、窓際後方のベストポジションを確保できたね! このまま一年間、席替えが無ければいいのに……あ、でも、竜司にとっては紅野さんと席が近かった一年の時の方が良かったかな?」


 竜司の机に右腕の肘をのせ、顔を寄せながら、ニヤニヤとした表情で壮馬が語りかけてくる。

 後半のセリフは、明らかに、皮肉屋の壮馬ならではの言葉だろうが、正直なところ、竜司は、紅野アザミと座席が離れたことに、少しホッとしていた。

 新学期最初の彼女との再会は、気まずさを残さずに終えたものの、座席が近く、会話をする機会が増えるような場合に、平常心を保ち続けられる自信が、今の竜司にはなかった。


「はぁ!? うっせ〜わ!」


 目つきの悪い少女がシャウトするアニメ調のPVでおなじみの楽曲よろしく、幼なじみにして、口の悪い友人には、一言だけ返しておいた。

 自身が発した抗弁に、いまだニヤケ顔を崩さない目の前の相棒のことは、一旦、頭の片隅に追いやり、竜司は、高校二年生の一年間における紅野アザミとの関係をどのように構築するかを考え始めていた。


(クラスが同じになったとは言え、とりあえず、席順も離れているし……去年のように、同じ委員会に所属したりしなければ、自然に一人のクラスメートとして認識してもらえるだろうか……)

(ただ、その前に、春休みの動画のことで、紅野に迷惑を掛けてしまうかも知れないことは、謝っておかないとな……)


 そして、深くため息をついて、


(ハァ……元はと言えば、コイツが余計な提案をしてこなければ……)


 前方の席から、こちらを見つめる悪友をジロリと睨んだ。


「なんだよ!? 急に、『憎しみで人が殺せたら……』みたいな目付きで、見てきて……」


 相変わらず、古典的名作のセリフを引き合いに出す壮馬に、


「オレに呪霊が使えたら、のモノをんでやりたい気分だ」


と、竜司が応酬すると、


「ふ〜ん。呪術高専に転校したければ、お好きなように……」


 友人は、素気なく返答し、「ところで、転校と言えばさ……」と、話題を変えた。


「紅野さんの後ろの席、誰も座らないままなんだけど、やっぱり、新学期でも転入生の紹介ってあるのかな?」


 その一言で、紅野アザミの真後ろの窓から二列目、前から二番目の座席に目を向けると、確かに空席のままだ。

 教室内には、友人たちとの談笑のため、席に着いていない生徒もチラホラといるものの、他の席と違い、その座席にだけは、通学カバンが掛かっていないため、現段階では、いまだそのあるじが、教室内に存在しないであろうことが推察される。

 壮馬の言葉によって、竜司の意識が、最前列の席で友人と談笑しているクラスメートから、教室全体の雰囲気に向かうと同時に、朝のショート・ホーム・ルームの時刻を告げるチャイムが鳴った。

 クラス内の喧騒は、ボリュームが抑えられ、ほどなくして、勢いよく開いた教室前方の扉から、新しい二年A組の担任である谷崎ゆりが現れた。

 そして、その後には、一人の女子生徒の姿がある。

 担任教師に連れられた彼女が、脚を踏み入れた途端、教室内の空気が一変するのがわかった――――――。

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