閑話:姦しい水着ショップ。
楓姉さんは、ちょっとお高めのお店で腕時計を買った。わたしからすると、ちょっと手の届かない金額だったけど、姉さん曰く「これしかお洒落をしないから、全体で言えばみんなと同じくらい」らしい。
「じゃあ、俺はここで休んでるから」
冬馬はベンチに腰掛けて、ムキャデさんが入っている紙袋を足元に置いた。二人っきりじゃなかった仕返しで、ちょっとだけ大きめの物をまとめて買ったりもしたのが、いまさらだけど申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「りょうかいです! 選んできますんで待っててくださいねっ」
「冬馬さん、ホントに私たちについて来なくていいんですか?」
「ふふっ、幸奈ちゃん、あんまり冬馬くんをからかっちゃダメだよ」
わたしたちは、三人で水着を選ぶことにした。
お店の中には、色とりどりの水着が並んでいて、夏だーって感じがする。
「はぁーあ、千桂センパイだけならどうにかなると思ったんだけど、楓姉さまが厄介だなぁ」
「? 幸奈ちゃん?」
三人そろって水着を見て回っていると、唐突に幸奈ちゃんが呟いた。
「あら、どうして厄介なの?」
「だって、楓姉さまも狙ってるでしょ? 冬馬さん」
「えっ!?」
幸奈ちゃんは、なんとなくそんな気がしていたから、驚きはなかった。でも……楓姉さんまでだなんて……
胸の奥が締め付けられるような、ギュッとした感覚がする。どうしよう。冬馬と普通に話せるようにはなったけど、私が思うよりも、ずっと冬馬は人気があって、このままじゃ、わたしから離れて行ってしまうようで、辛かった。
「ええ、勿論」
「だったら、水着選ぶのにも同行させてくださいよー、アピールできそうなタイミングだったのに」
幸奈ちゃんは唇を尖らせる。それを見て楓姉さんは首を振った。
「押しすぎ。冬馬くんは千桂ちゃんに失恋したんだから、その傷が癒えるまでは様子を見てあげないと――」
二人の会話を聞いて、私は驚いていた。
だって、冬馬と普通に買い物をするつもりで水着ショップに行っていたし、冬馬が来なかったのは、荷物持ちで疲れたからだと思っていた。
それに、わたしが冬馬と振った……? もしかしてあの時の事を、振られたと思っているんだろうか。だとしたら、誤解をとかなきゃ……!
「そういう駆け引きをするより押し切っちゃった方が早いですって! こういう水着で攻めちゃうのはどうです?」
「正面から押し過ぎてもガードが固くなるだけよ、北風と太陽の寓話と同じ……」
幸奈ちゃんは三角形の布が三つのセパレート、楓姉さんはレオタード型の水着を選んで話しているけど、わたしはずっと別の事を考えていた。
――冬馬に、なんて言おう。
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