第64話 四人合計三〇八〇円です。

 モールも中程まで来て、買ったものが随分と多くなっていた。


 俺達はブティックに挟まれて何とか営業しているバーガーショップで昼食をとっている。


「綾瀬はどうするんだ? 何も買っていないが」


 俺はそんな事を聞きながらフィレオフィッシュバーガーにかぶりつく。


「うーん、もう少し見て回りたくて、ほら、あんまり全身でお洒落するには難しいでしょ? 制服を着ていることがほとんどだし」


 綾瀬の注文はオリジナルバーガーというこの店では一番オーソドックスな物だった。彼女はそれを上品に、少しずつかじっている。


「むぐむぐ……んぐっ、たしかに私達、あんまり制服以外を着る機会無いですもんね」


 千桂はパウンドバーガーとかいうでかい奴を豪快にかぶりついている。食い意地の張ってる奴め。


「私は帰宅部だし、学校や住むことも多いから着る機会多いんですよね、増やしてるとも言いますけど」


 幸奈は笑いながらポテトを摘まむ、逆にそれだけしか食べないのは、夜までもつのか? という気分になる。


「できれば制服にも合わせられて、それでいて目立ちすぎないような、そういうものがあればいいんだけど」


 だとするとアクセサリーか、うちの高校は別に校則が厳しいわけじゃない。だが、だからと言って華美なものを身につけていると没収される事もあるだろう。となると、ある程度実用性があった方がいい訳もしやすいはずだ。


「……腕時計とかどうだ?」

「時計? 時計かぁ……」


 実際、腕時計くらいなら付けている生徒も大勢いるし、先生の方からも注意しにくいだろう。少々値が張ったところで、デザインが落ち着いたものを選べば、誰からも文句は言われないはずだ。


「うん、いいかもね、冬馬くんがお勧めしてくれたし」


 俺が勧めたから、という言葉に引っ掛かりつつも、買うものを決めてくれたようで助かる。重くないしかさばらないしな。


「あ、そうだ。千桂センパイに楓姉さん。時計見終わったら水着見に行きましょうよ」

「ぶっ!?」


「むっ……んぐっ、遂にですか……いいですよ、真夏のビーチに似合う水着を仕立てましょう」

「ええ、そうね、冬馬くんもそろそろ荷物を持てる量が限界になるし」


 思わずアイスティーでむせてしまった。


「じゃあ、俺はその間外で待ってるよ」


 健全な男子高校生には刺激が強すぎる。考えただけで顔が熱くなるのを感じる。


「ええー、冬馬さんも一緒がいいなぁー……」

「そうですよ、どうせなら冬馬も一緒に新しいのを探しませんか?」


 千桂と幸奈が食い下がってくる。幸奈はなんで俺が行きたがらないかを分かっているようで、逆に千桂は分かっていないようだった。


「いや、お前ら――」

「まあまあ、二人とも、冬馬くんは男の子なんだから、無理に誘うのもかわいそうでしょ?」


 押し問答になりかけたが、綾瀬が助け舟を出してくれた。ここら辺を理解してくれている彼女は、こういう時とてもありがたい。


「むぅ……」

「つまんないのー」


 不平を言いつつも、綾瀬に逆らうつもりは二人には無いようだった。

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