第59話 四人そろってさあ出発だ。

 待ち合わせ場所には、既に幸奈と千桂が到着していた。


「二人とも結構早かったんだな」

「それはもう、冬馬さんと早く会いたかったですし……というか、えっと、初めまして、ですかね?」

「ええ、はじめまして、話は冬馬くんから聞いてるわ」


 幸奈が距離を測りかねるように頭を下げると、綾瀬は完璧なお姉さんムーブで対応する。なんとなく、この二人は仲良くなれそうな気がした。


「むぅ……」


 二人の姿を微笑ましく思っていると、千桂が肩をグーで叩いてきた。なんだ、痛いぞ。


「どうした?」

「二人で行くとは言わなかったけど……普通二人きりでしょ」


 ぷくっと頬を膨らませる。不機嫌で怒っているのは確かなのだが、その姿はどこかかわいらしさがあった。


「悪い、でもしょうがなかっ――」


 言いかけて言葉を切る。幸奈は仕方ないが、綾瀬はそうでもないな。そう思いなおした俺は、素直に頭を下げた。


「いや、ちがうな、ごめん」

「ん、許しましょう。冬馬が大変になるだけだもんね」


 そうだ、当初の予定よりも、買う量にもよるが三倍になるのだ。体力はもつだろうか。


「さて、じゃあ行くか。目的地は深河駅だよな?」

「了解でっす!」


 ビシッと敬礼っぽい仕草をする。そんな彼女を見て微笑ましく思いつつ、俺たちは歩き始めた。


「それにしても、意外ね」


 改札を通る直前、綾瀬が唐突に呟いた。


「なにが?」

「女の子三人に囲まれてお出かけするなんて」

「あー……これは、成り行きって言うか……」


 別に「女の子に囲まれて休日を過ごしたい」と思ってこうなった訳じゃないんだが、結局はそういう事になっている訳で、そこを突かれると痛い。


「もしかして、女の子をたくさん侍らせたいとか?」

「まさか、そんなわけないだろ。千桂と約束して、幸奈が来たいって言いだして断れなくて、綾瀬は朝の通りだよ」

「ふーん、そうなんだー」


 意味ありげに頷いた綾瀬は、俺から離れて千桂と何やら話している。何を企んでいるのかは分からないが、いい予感はしなかった。


 なんにせよ、綾瀬を呼んで正解だったな、元々白崎の妹っていう事もあって、千桂も少しぎこちなかったのだ。


 さっき幸奈と話してすぐに打ち解けていたのもあったし、うまい具合に仲を取り持ってくれるかもしれない。


「冬馬さんっ」

「っ!? ……おい、電車で暴れるなよ」


 電車が動き始めたところで、幸奈が身体をぶつけてきた。


「今日はですねえ、いろいろ買いたいものがありまして、楓姉さまと相談してたんですよ」


 楓姉さま……?


「何を買うか気になります?」

「いや、どうせすぐわかるだろ……」


 綾瀬に対する奇妙な呼び方に違和感を覚えつつ、彼女の相手をする。こいつはなんというか、会った時から思っていたが真意が掴みにくい。


「実は……水着とか買おうと思っていまして」

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