第57話 生徒会の面々には、心の中で謝っておいた。
「よし」
待ち合わせの時間三〇分前、俺は服装を整えて玄関先の姿見を見た。前髪は相変わらずボサボサで目元が隠れているが、服装は変に気合の入っていない、しかし清潔感のある格好になっている。
……まあ、結局はいつものジャケットを羽織ってるだけなんだが。
なんにしても、そろそろ出発すれば丁度いい時間だろう。靴を履いて、意気揚々とドアを開けた。
『あ』
ドアを開けて外に出た途端、外にいた人と目が合った。
「おはよう、冬馬くん」
「……ああ、おはよう」
綾瀬は、目を細めて笑いかけてくる。何ともばつが悪い。
映画を見に行った時以来か、以前のような強烈な苦手意識はなくなったものの、未だに身構えてしまうのは、俺がまだまだっていう事なんだろうな。
「今日はどこかに出かける予定?」
「友達と買い物だけど――あ」
そこまで考えて、俺は思い至る。幸奈も行くと伝えた時、千桂がかなり不機嫌になっていたことを。
「よければ、一緒にどうだ?」
そういえば、千桂は綾瀬の事をかなり気に入っていたと思う。彼女を連れて行けば、機嫌も直るんじゃないか?
「うーん……ちょっと待ってね」
綾瀬はそう言って、鞄から携帯を取り出してどこかへ電話を掛ける。
「……あ、私だよー、うん……うん、それでー……ごめんね、ちょっと今日行けなくなっちゃったから。よろしくね」
綾瀬はそう言って通話を切る。
「よし、じゃあ行こっか、冬馬くん」
「いいのかよ、用事あったんだろ?」
「うん、生徒会の仕事がちょっとね、備品の管理とか、後期の部活動申請の処理とか」
「は?」
それを聞いて、俺は思わず聞き返していた。
休日だっていうのに、生徒会の仕事がある事にも驚いたが、副会長ともあろう人が、電話一本で予定をキャンセルするなんて、信じられなかった。ましてや、大事な用事とかならともかく、俺が思い付きで言った軽い提案でだ。
「でも、私が居なくても何とかなるし、冬馬くんが久々に誘ってくれたんだもの、そっちを優先したいな」
なんでもないようにそう言ってのけると、綾瀬はにっこりと笑う。その表情は中学以来で、とても懐かしく感じた。
「じゃ、じゃあ、いくか」
「うん、いこ――」
綾瀬が言いかけた時、彼女の携帯に着信が入った。
しかし、綾瀬はノータイムで着信を拒否して、携帯の電源を落とした。
「……いこっか!」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫! みんなが私に頼りすぎなの!」
そう言われては、俺はもう何も言えなかった。
「……じゃあ、待ち合わせは駅前だから」
学校かどこか分からないが、恐らく大騒ぎしているであろう生徒会のメンバーに、俺は同情を禁じ得なかった。
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