第51話 小遣い入った。

「まさか千桂ちゃんがあんなに怒るとはなあ」


 フードコートで石倉が、コーラから口を放してしみじみと語った。


「意外ですよね、あんなにガツンと言うなんて」

「うぅー……恥ずかしいっ」


 田中も同調して千桂に視線を送ると、彼女は両手で顔を覆ってしまった。真っ赤になった耳がなんとも微笑ましい。


「だが、嬉しかった。ありがとう」


 そうだ、恋愛対象と見られていなくても、俺と千桂は友達で、お互いの心は通じている。ちょっと過剰反応されたくらいで、消えるような絆じゃないんだ。


「でさ、けっきょく千桂ちゃんと碓井の間で何があった訳?」

「いや、別に?」


 石倉の問いかけに、俺ははっきりと答える。


「俺も千桂も、ちょっと勘違いして気まずくなってただけだ。なんて事は無い」


 ただ相手に嫌われたんじゃないかって不安だっただけだ。その不安がなくなった今、それは些細なことでしかない。


 そう思ってちらっと千桂の方を見ると、ちょっとだけ不機嫌そうだった。なんで?


「ふーん、だったらいいけどさ、告白して玉砕したとかじゃないんだ」

「そんな勝算の無い事はしないさ」

「おっとぉ? 俺にダメージ来たぞ?」


 そう言えば、綾瀬に告白して玉砕した奴が目の前にいたな、悪いことをした。


「すまん、勝算とか関係なしに突っ込む奴がいたな」

「あ、言ったなこいつ!」


 二人して軽く笑い合う。冷静に考えると玉砕したようなもんだけど、黙っておけばバレないだろう。


「そういえば、碓井さん。白崎さんと自分は一緒だって言ってましたけど……」


 田中がおずおずと聞いてくる。


「僕はそう見えないんですけど、どういう事なんですか?」

「そうそう、わたしも気になるな、折角あんなに怒ったのに梯子外されちゃうなんて、千桂ちゃん心外ですぞ!」

「ああ、それは――」


 言いながら、携帯の画面を白崎のアカウントにする。いくつかの発言をブックマークしておいたものを順番に見せていって、みんなに説明をする。


「発言を見てると、優秀な妹と比べられ続けてああなったらしい。俺も千桂や石倉と会う前まで、綾瀬と比較されて腐りまくってたからな、そういう意味で同じなんだ」


「そうだったんですね……」

「副会長が比較対象はエグかったな、お前……」


「そうそう、おもいだしました。知り合って最初の方に言ってましたよね。楓姉さんの幼馴染で、よく比べられてたって」


 千桂がそう言って頷くと、石倉の表情が変わる。


「え、おい、ちょっと待て、比べられてた理由って――」

「同じマンションに住んでるからだけど?」


 ガタガタと音を立てて石倉が立ち上がる。そして俺の手を握り、曇りの無い瞳を向けてきた。


「今度、お前んちに遊びに行っていいか?」

「しつこい男は嫌われるぞ」


 というか、一時は抜け殻になるレベルで落ち込んでたのに、再挑戦するのはそう簡単にできる事じゃない。スポーツマンのメンタルはここまで強靭なのか。


「同じ方法でアタックするのは愚の骨頂! 副会長相手に無理なら、次は友達の幼馴染にアタックすればいいのだ!」

「……あきらめの悪さは評価するよ、俺は」


 新たな切り口を見つけて闘志を燃やす石倉に、俺は半ば呆れにも似た賞賛を送った。

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