第50話 テスト結果が帰ってきた。2

「赤点ギリギリの石倉と一緒に居てさあ。どうせ周りを見下して悦に浸ってんだろ?」


 声の方を向くと、白崎がこっちに歩いて来ていた。


「おい、お前――」


 石倉が反応するが、俺は手で制した。言いたいことは全部言わせてやるつもりだ。

 周囲を見ると、何事かとこっちを見ているクラスメイトは何人かいるが、このトラブルに割り込もうと思う奴は居ないようだった。


「楽しいかよ、他を見下すのは、なあ?」

「楽しいわけがないだろ、そもそも見下してなんていない」


 受け答えをしつつ、周囲の様子を見る。白崎といつもつるんでいた奴らでさえ、軽く引いているようだった。


「嘘つくなよ! ゴールデンウィーク明けから何なんだてめえは!!」


 石倉を抑えるのもちょっときつくなってきたが、手を離したら、もうそのまま取っ組み合いの喧嘩になりそうなので、全力で抑え続ける。


「入学時からずっと、できない奴らを心の中で見下して――」

「いい加減にしなよ!」


 その声は、聞き覚えがあるはずだった。


 だが、こんな声色は初めて聞いた。石倉でさえも毒気を抜かれたように呆けている。


「冬馬はずっとわたし達のために頑張ってくれてたんだよ!? 人を馬鹿にしてばっかりのあなたと一緒にしないで!」

「千桂……」


 俺にとって、その言葉と行動は救いだった。


 彼女から嫌われている訳じゃない。それが実感として心の中にしっかりと刻まれたのを感じる。


「うるせえよ! どうせ碓井も同じだろ! 俺と一緒で周りを馬鹿にしてにやついてるような奴だよ!」

「ぜんっぜんちがう! あなたに冬馬の何が分かるの!?」

「なんだと、このっ――」


 拳が振り上げられた段階で、俺は白崎の腕を掴んで止めた。


「碓井、てめえ……!」

「白崎、お前の言うとおりだよ」

「――は?」


 憎々しくこちらを睨んでいた白崎に、ずっと考えていた事を言う。


「比較されて、劣った奴、ダメな奴だと決めつけられて、いつの間にかそれが自認になっていた。比較される事、頑張ることから逃げていた。それが俺で、お前だ」


 田中と出会わなければ、結果に左右されず頑張る。好きな事だからやるという事を思い出せなかった。


 石倉と出会わなければ、自分にとっての成功体験を忘れていた。


「俺は一か月前まで、お前が言うような奴になるところだったし、お前になる可能性もあった。……違うのは、知り合った友達だけだ」


 千桂と出会わなければ、俺はそうなっていた。根拠はないが、そう直感している。


「……ちっ」


 舌打ちが聞こえて、白崎は俺の手をふり払う。


「うぜえ……帰るわ」


 そして、そのまま荷物を纏めて教室を出て行ってしまった。

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