第47話 バーガーがしょっぱい。

「……」


 居心地が悪い。


 この間のやらかしで、千桂の様子が変わるかと思ったが、そこまで変わってはいなかった。むしろいつも通りと言えるだろう。


 しかし、唯一ちがうのが、俺への態度だ。


 朝の挨拶も昼食時も、それとなく避けられている。間接キスを自覚させた時ですら、もう少し手心があった。


「おー、碓井、今日も勉強教えてくれ、今日は英語な!」

「すいません、一人で頑張るべきなんでしょうけど……」

「いや、構わない。じゃあいつものフードコートに行こうか」


 放課後になって、ようやく俺にとって最大のチャンスがやってくる。


「勿論、千桂ちゃんも呼ぶよな?」

「……あ、ああ」

「僕、声かけてきますね」


 早々に帰ろうとする千桂に、田中が声を掛けに行く。なんとか人を介してでも会話できればいいんだが。


「――ごめん、今日はお母さんから留守番頼まれてまして!!」

「ああ、じゃあ仕方ないですね。僕達三人だけでやりましょう」


 淡い期待は見事に打ち砕かれる。千桂は両手を合わせて謝罪すると、そそくさと居なくなってしまった。


「まーしょうがねーな、俺達だけでやろうぜ」

「そうだな……」


 確かに、千桂は最低限の教えられるところまでは教えているし、赤点を取る心配も無いだろう。石倉や田中と一緒に勉強する意味は薄いかもしれない。


 だが、俺達四人は一緒だった。それが無くなってしまうのは悲しかったし、その原因を作ったのが俺だという事に、少なからず罪悪感を感じていた。


「とりあえず千桂はあそこまでできれば何とかなる。俺たちは俺たちで赤点は回避しないとな」


 そういう訳で、俺たちはいつも通りフードコートへ向かう。


 石倉はコーラ、田中はウーロン茶、俺は小遣いが尽きたので水をサーバーから汲んできた。


「ひもじいな、お前……」

「ほっとけ、小遣い入るのはもうちょい先なんだよ。それより英語の教科書開いてくれ」


 千桂が居ない勉強会は想像以上にサクサクと進む、味気ないくらいだ。


「ああ、そこは現在形、過去形、過去分詞系が同じだぞ」

「おっと、そうだった」


 石倉達も余程変な間違いをしなければ赤点は免れるだろう。そうなればこの集まりも終わりで、いつもの生活が戻ってくる。


「――」


 いつもの生活って、何がいつもの生活だ?

 誰ともかかわりを持たず、一人で居た日々か?

 一人で綾瀬に追いつこうと頑張っていた頃か?


 千桂が居た頃は……帰ってくるのだろうか? 思えば、俺はあいつが居たから歩き出すことができて、ここまでこれたと言っても過言ではない。


 そう考えると、俺には何も――


「ほらよ」


 俺の前にトレーが置かれ、その上にはハンバーガーと紅茶が乗っていた。


「……?」

「腹減ってて変なこと考えてんだろ。日頃のお礼って事で、俺と田中から、な」

「眉間に皴寄ってて、何か悩んでいるようでしたので」


 石倉の眩しいまでの笑みと、田中の不安げな顔が俺を見ている。


「……サンキュ」


 俺は袋を剥いてバーガーにかぶりつく。本当にこいつらは、良い奴だ。

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