第42話 こいつ見てて飽きないな。
バレーボールが左右に弧を描いてやり取りされている。俺はそれを眺めてあくびを漏らした。
ネット際で待機していた石倉が跳びあがり、スパイクを入れてそれがコートの内側に入る。そして歓声が上がる。大したもんだ。
白崎の様子を見ようとは思ったものの、次の時間が体育だったのを忘れていた。着替えを済ませた時には、あいつはもう教室を移動していて、タイミングを逃してしまった。
「よっしゃあ! 勝ちぃ!」
石倉がまたスパイクを決めて、彼のチームは勝利した。隣からは黄色い歓声が聞こえてくる。体育館を半分に分けて、片方は女子、もう片方は男子でバレーをしているという訳だ。
「じゃあBチームは勝ち抜き、次はCチーム準備しろ」
体育教師がそう宣言して、俺は立ち上がる。男子は三チームに分かれて勝ち抜き戦をすることになっていた。
「ねえ、どっちが勝つと思う?」
「んー石倉くんの方かな、背が高くてバスケ部だし、さっきのもすごかったじゃん」
女子の方も三チームに別れているようで、暇そうな女子たちから無責任な期待が吹っ掛けられていた。
「ふっふっふ、来たな碓井、今日はお前を負かしてやる」
「授業だろ、熱くなるなよ」
そのあおりに載っている石倉を宥めつつ、俺はポジションに付く。ちなみに白崎はさっき負けたチームに入っている。同じチームなら話すこともできただろうが、これでは難しい。
「行くぞー」
ブザーが鳴り、相手側がサーブでゲームが始まる。綺麗な弧を描いてコートに入ってきたボールをメンバーがレシーブし、俺がネット前にトスを上げる。そこに走り込んできたもう一人がスパイクを決め、ブロックの手を縫ってコートにボールを落とす。
「よっしゃあ先制!」
「大丈夫、まだ一点、すぐ取りかえそう!」
スパイクを入れた奴がこぶしを突き上げてそう叫ぶ。石倉の方を見ると、周囲に気を使いつつ、メンタルで負けないように檄を飛ばしていた。
「この調子でもう一本! 乗っていこう!」
そういう事なら、俺も声を出していくべきだろう。全力を尽くさないのは止めたんだ。できる限りのことはやってやる。
ローテーションを終えて、次は俺がサーブを入れる番だ。
「……」
呼吸を整え、視界を確保するために髪を掻き上げる。左手でボールを高く上げると、タイミングを合わせて相手のコートへ打ち込む。ボールは上手い具合にレシーブの手をすり抜けて、ラインの内側で跳ねた。危ない、ギリギリだったな。
「よしっ……?」
小さくこぶしを握る。その時、試合していないチームが待機している辺りで、歓声が沸き起こった。
「すっげえ、碓井って目立たないだけで、実はスペックめっちゃ高いんじゃね?」
「ていうか髪でよくわかんなかったけどめっちゃカッコいいじゃん!」
「彼女とかいるのかな? 今度カラオケ誘ってみよーよ」
いや、なんか……急にこういう評価貰うとくすぐったいな。
いやいや落ち着け、冷静になれ。どうせ周囲が慣れるまでの間だけだ、それが過ぎればまた普通の生活が戻ってくる。
「碓井ぃぃーーーっ!!! 別に俺は悔しくねえぞぉーーー!!!」
石倉の悲痛な叫びが投げかけられる。
うん、お前はずっとそのままでいてくれ……
慈しみを込めた視線を彼に送ってみるが、石倉はその顔を見て「畜生おおおおおおおおおぉぉぉぉーーーーーっ!!!!」と叫んだ。
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