第41話 俺はノートに「テストに出る」と書き込んだ。
数日後、テストも近づき、クラスの勉強していない奴らも焦りだした。常日頃から勉強しておけば大丈夫とは言うが、常日頃から勉強している人間は、そう多くないことは先生も知っているだろうに、鬼なようなことをする。
「じゃあ次の問題を十五日だから……白崎、前に出て解いてみろ」
「試験範囲外なんで分かりません」
数学の時間、白崎はほとんどノータイムでそう答えた。黒板に書かれた問題は基本的な問題だったが、確かに試験範囲からは外れている。だが――
「あのなあ白崎、中間の範囲から外れていても、期末じゃ絶対範囲に入るんだから、これくらいは解けないとダメだろ」
クラスの中で失笑が起こる。まあそういう訳だ。さっき教えてくれた通りに解けばすぐに分かりそうなものだが。
「じゃあ五月十五日で二つあるから五番、碓井、解いてみろ」
「はい」
黒板の前まで歩いていき、チョークで丁寧に公式を展開していく。行は多いがやる事は簡単。とはいえ変に突っ込まれるのも嫌なので最後まで丁寧に。
「これで良いですか?」
「ああ、完璧だ。戻っていいぞ、ではこの解説だが――」
最後に答えである2を書いてチョークを置くと、すぐに先生が解説を始める。
「球技大会の時も思ったけど、やっぱり碓井くんって凄いよね……」
「ノート貸してもらおうかな、一夜漬け付き合って貰いてー……」
「綾瀬副会長と同じくらいすごい奴なんじゃないかって最近思えてきたわ……」
ひそひそと俺への勝手な評価が囁かれる。このくらいで綾瀬に並べる訳もなく、ノートはほとんどメモ書きで汚いし、綾瀬なら球技大会は勝つこともできただろう。
「お疲れっ! カッコよかったですぞー……!」
席に座ると、千桂からそんな言葉がひっそりと伝えてくれた。このくらい出来て当然。と言いかけたのを飲み込んで、咳払いをする。
「ああ、簡単な問題で助かった」
それだけ返して、俺は黒板に書かれた数式と解説をメモしていく。
「――とまあこういう感じにやっていけば、簡単に解ける訳だ。さっきも言ったが中間の範囲からは外れるが、期末テストじゃ絶対出すから白崎も含めて全員覚えておくんだぞー」
先生の言葉にクラスで苦笑が漏れる。彼には悪いが、絶対に出すという言質を取れたのはありがたい。そんな感じだろうか。
まあ俺も大勢に漏れず苦笑いをしていたが、白崎の方から視線を感じ、そちらを見ると丁度彼と目が合った。
「……」
気まずかったのか、彼はすぐに目をそらしてしまったが、俺はなんとなく、彼の思っていることがわかるような気がした。
多分、俺のせいで恥をかいたとか、自分の不勉強を棚に上げて、俺への文句をつらつらと心の中で考えているはずだ。
だとしたら、授業が終わったら様子を探っておいてょうが良いかもな。授業の終わりまでまだかなりある時計を、恨めしく眺めながら、俺はそんな事を思った。
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