第38話 音ゲーコーナーに居てくれたのはちょっと嬉しかった。
千桂と別れた後、俺はゲーセンで幸奈を探していた。
メッセージを送っても既読がつかず、電話を入れても無視される。そういう状況がここ数日は続いている。
テスト期間だからとか、そういう理由で後回しにしてきたが、このままで良いはずが無い。そもそも、俺は彼女の真意を聞きだしていないし、白崎があんな事を言った理由も分かっていない。
思えば、俺は幸奈について知らないことが多すぎた。それも当然だ。知り合って数日なんて、知ることができる情報は限られる。
その中でも、俺が彼女と共通している場所はここしかなかった。
壁には「ナンパ禁止」の張り紙があった。思わず苦笑いしてしまうが、背に腹は代えられないのだ。申し訳ないがお目こぼしをしてもらうしか無いだろう。
「……」
忙しく見回すが、幸奈の影は無かった。
何せ金髪に翠瞳、服装も個性の塊のような彼女だ。居るならすぐに分かるだろう。
プライズコーナーも、格ゲーコーナーも、体感ゲームコーナーにも居ない。俺を避けているとすれば当然か、もしかすると他のゲーセンに通うようにしたのかもしれない。
「……」
もう回っていないのは一番奥にあるメダルコーナーと音ゲーコーナーだ。
少しの期待をもって音ゲーコーナーへと向かう。天井から下がるディスプレイには各々のゲームのスコア記録が並んでいる。いくつものランキングにTOMの文字が乗っている。そういえば幸奈と知り合ったのは、このランキングがきっかけだったな。
慣れ親しんだいくつもの筐体の隙間を縫っていくと、目を引く金色の髪が見えた。
「幸奈」
「……えっ!? 冬馬さん!?」
クレジットが尽きたのを見計らって声を掛ける。幸いなことに彼女は、オーソドックスと言うか、悪く言えば古臭い音ゲーのスコアアタックをしていた。
「な、なんで……いつもは来ないはずなのに」
「テスト前だから、というよりお前を探してたんだよ」
メッセージは未読無視、着信も反応なし、心配するのは当然だろう。そう伝えると、幸奈は自分の髪を撫でた。
「あー……ちょっと心配させちゃいました?」
「そりゃ、まあ当然だろ」
別れ際の無理している感じも含めて、何か思い詰めていることがあるようにも見えたし、単純に幸奈自身の話も聞いておきたかった。そもそも、何故白崎の友人になって欲しいかもわからないのだ。
「あはは、申し訳ないです……」
そう言って幸奈は苦笑する。俺はなんとなく、彼女がずっと無理をしているように感じられた。
「ちょっと話せないか?」
これからどこかの店に入るには、時間が遅いかもしれない。それでも、今彼女を捕まえておかなければ、取り返しのつかないことになるような気がしていた。
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