第36話 そういや勉強会って初めてだな。2

「そんなことないです!」


 千桂がテーブルを叩いて立ち上がった。


「冬馬はそんな人じゃないです!」

「いや……冗談だよ、冗談」


 突然声を上げた彼女を宥めて、座らせる。周りの家族連れが驚いてこっちを見ていて、ちょっと恥ずかしかった。


「そんなこと言う人いたら、わたしは許しませんよ!」

「わかったわかった――そんなに怒るなよ」


 そりゃあ嬉しい事は嬉しい。


「まー千桂ちゃんが怒るのも分かるけどな、だってお前、面倒見めっちゃいいし」


 石倉がコーラを片手に笑う。


「バスケの時だってなんだかんだ言って手伝ってくれたしな」

「漫画も真面目に感想言ってくれますし」

「いや、お前ら、なんだ、気持ち悪いぞ」


 今日は三人そろって俺を持ち上げる日なのか? というくらいに褒められて思わず動揺する。そんな俺を見て、三人は笑った。


「……あんまりからかうな」

「ごめんごめん、でもお前、変に卑下してると俺らもやりにくいからそこそこにな」


 石倉に詫びて、俺は残った紅茶を飲み干す。休憩はこのくらいで良いか。


「じゃ、勉強再開だな。次は数学だ。因数分解の基礎から始めるぞ」


『うげぇ』


 全員が同じ反応を返してきた。


 その姿に苦笑しつつ、俺は叫箇所の初めから試験範囲までを教えていく。


 正直なところ、はっきりと否定してくれたのは嬉しかった。


 このテスト勉強だって、受け取り方によっては「勉強できないお前らを見下している」みたいに取る事も出来るだろう。だが、こいつらはそれをしなかったし、俺もそんなつもりは毛頭ない。


 友達って言うのは、案外こんなものなのかもな。中学までの自分は、綾瀬の影を追うばかりだったし、その頃の友人は覚えていない。残酷かもしれないが、俺はきっと中学時代の終わりで挫折して、立ち止まった後で高校生になれたのが良かったんだろう。


 もしかすると、挫けるのが遅かったり早かったりしたら、今とは違っていたかもしれない。そう思わずにはいられなかった。




「じゃ、今日はここまでだな」


「ういー……」

「今日はよく眠れそうです……」

「バスケの練習より疲れた気がするぜ……」


 喉に心地よい疲労を感じつつ、三者三様の言葉を聞きながら、石倉と田中を見送る。千桂はどうも頭がショートしたらしく、机に突っ伏したままうーとかあーしか言わなくなっていた。


「じゃ、また明日な、千桂ちゃんちゃんと見とけよ」

「ああ」

「テスト終わったらまた漫画描きますね……」


 二人は伸びをしつつフードコートから去っていく。


「ふぅ……おい、無事か?」


 二人を見送ったところで、俺は千桂を揺する。このまんま力尽きて寝られるのは困る。


「うー……かふぇ……お、れ」

「……」


 甘いものが飲みたいって事な。


 仕方ないと思いつつ、近くの自販機でカフェオレのペットボトルを買って机に置く。頑張ってたしこれくらいは奢ってやろう。今月の小遣いちょっとヤバいけど。


「冬馬って……神?」

「大げさすぎんだろ」


 千桂の頭を軽くはたいた。

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